2019年9月28日土曜日

ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-

TOHOシネマズ上野藤田春香監督作品『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』を鑑賞しました。

主人公ヴァイオレット・エヴァーガーデン(CV:石川由依)は元少女兵士。一切の感情を排し任務を遂行する訓練を受け戦績を上げたが、戦闘で両腕と最愛の上官を失ってしまう。戦後、ハイスペックな義手を得て手紙の代筆をするドール(自動手記人形)の職に就く。代筆を通じていろいろな人たちの感情に触れ、自身も感情を取り戻す。

というのが2018年冬クールに放送していた本編で、僕もMXTVの深夜放送を毎週録画していました。

今回の外伝は、デビュタントを控えた貴族ヨーク家の娘イザベラ(寿美菜子)に令嬢としての振る舞いを指導してほしいとドロッセル王家から依頼を受けたヴァイオレットが上流階級の全寮制女学校に3ヶ月間同室するところから始まるストーリーです。

「出会わない」という美学が物語全体に貫かれています。手紙に書かれた文字を媒介にした関係性に自らの行動を限定しており、物理的に近くにいてほんの数歩踏み出せば触れられるというときにあっても、文字という視覚情報に喚起される感情、それ以上は自制してしまう登場人物たち。幼い孤児テイラー・バートレット(悠木碧)にもその美学を適用することでより強調される。

本作は7月18日に起こった京都アニメーション放火事件の直前に完成しており、事件後最初の公開作品となりました。風に揺れる髪、膨らむスカートの裾、バスタブの湯気、スノードロップから落ちる朝露の雫、雪と白い息、石畳を灰色に染める夕立。京アニならではの繊細で優美な「あらゆる光の目録(©宮沢賢治)」を堪能できます。本作に関わり事件で亡くなったスタッフも多数いると聞きます。どうか安らかに。

 

2019年9月22日日曜日

マユルカとカナコとタケシ

それは4月のこと。mayulucaさんから一通のメッセージが届きました。mayulucaさんと西田夏奈子さんのユニット「マユルカカナコ」が池ノ上ボブテイルさんに出演するにあたり、僕とツーマンライブで、というお誘いです。

2013年秋に阿佐ヶ谷イネルで聴いて以来、mayulucaさんの都内のライブはほとんど通っており、下北沢SEED SHIPPoemusica何度共演してもらっています。西田夏奈子さんは劇団フライングステージ客演を10年以上前にはじめて拝見し、その後『俊読2017』で共演。お芝居以外にも何度もステージに足を運びました。そんなおふたりからのオファーをお断りする理由がありません。

当初はツーマンで1、2曲共演するようなものを想像したのですが、ボブテイルさんにお邪魔して打ち合わせるあいだに、もっと3人の声と音と言葉が有機的に絡む作品を構成してみようということになりました。これが場の持つ力というものなのでしょうか。

僕の12ヶ月連作ソネット「Universal Boardwalk」を時間軸を示す縦糸に、mayulucaさんの楽曲群を空間の拡がりとしての横糸に、夏奈子さんの声とヴァイオリンを色彩に例え、3D化する90分のパフォーマンス作品、というのが僕の中のイメージでした。

衣装は花柄。骨格がしっかりしつつ澄みきっており、厳選された最小限の言葉で綴られたmayulucaさんの音楽に向き合うために、極力フラットで明瞭な発声をしようと臨みましたが、始まってみれば良い意味で覆され、いつになくエモーショナルなmayulucaさんのパフォーマンスに呼応した夏奈子さんのテンションに導かれて、ドライブ感のあるライブになったと思います。それには客席のみなさんの一音も聞き漏らさないという熱やボブテイルの持つ磁場も大きく影響していたはずです。

「Universal Boardwalk」以外には「コインランドリー」と夏奈子さんのリクエストで「虹のプラットフォーム」「MAR November 4 2003」を僕が朗読し、花の名が出てくる3篇「六月(Universal Boardwalk)」「森を出る」「クリスマス後の世界(部分)」は夏奈子さんに朗読をお願いしました。

録音を聴くと、3人の声が溶け合わずぶつかり合わず絶妙な相性で、完成度の高い音声インスタレーションになっています。もっと多くの方に聴いてもらいたいのと、なにより打ち合わせから本番、終演後のあれこれまで心地良く楽しかったので、またこのメンバーでお届けできたら幸いです。

最後になりましたが、ご来場のお客様、ボブテイル店主たかえさん、mayulucaさん、夏奈子さん、どうもありがとうございました。

 

2019年9月15日日曜日

ダンスウィズミー

日曜日の夜、丸の内ピカデリー1矢口史靖監督作品『ダンスウィズミー』をレイトショー鑑賞しました。

大企業の本社勤務OL鈴木静香(三吉彩花)は、小さい頃は歌が大好きで小学校の学芸会でミュージカルの主役に選ばれた。本番での大失敗がトラウマになりミュージカル嫌いになったが、場末の占いテーマパークで老催眠術師マーチン上田(宝田明)に音楽が聞こえると歌い踊らずにはいられなくなる体質に変えられてしまう。

会社の若手エース村上(三浦貴大)にプロジェクトに抜擢されるが、仕事にも私生活にも支障が激しく、催眠術を解いてもらうべく、マーチン上田を追いかけ、元アシスタントの千絵(やしろ優)、探偵渡辺(ムロツヨシ)とともに、新潟、秋田、青森、函館、札幌と旅をするロードムービーです。

華やかなダンスシーンがスクリーンに映し出されますが、実は主人公の脳内イメージで、実際にはもっとずっとドタバタで格好悪い、というモンタージュになっており、その意味ではメタミュージカルといってもいいと思います。そもそもミュージカルという枠組み自体が虚構オブ虚構なわけですから、一回りしてリアリズムという入れ子になっている。オフィス内の群舞では紙吹雪がシュレッダーの屑というのが最高です。

そして主人公を演じる三吉彩花さんが大変魅力的に撮られています。Tシャツにデニムというシンプルなスタイルでも、モデルらしく身体のラインがきれいなのに加え、体幹がびしっと通っていてダンスが美しい。宝田明のこれぞスターという佇まいも流石。

オープニングとラストに2度かかる山下久美子の "Tonight" は本当に名曲だし、エンドロールの「タイムマシンにおねがい」の群舞にもテンションが上がります。終演後に照明の点いた客席を出ると、映画館のロビーがいつも無音であったことに気づかされました。

 

2019年9月14日土曜日

ロケットマン

十六夜の夕。ユナイテッドシネマ豊洲デクスター・フレッチャー監督作品『ロケットマン』を観ました。

1950年代、ロンドン郊外の中流住宅街。レジナルド・ドワイト少年の父親は英国空軍将校、母親は専業主婦。両親はそっけなかったが、同居する母方の祖母には愛されていた。ある日ラジオから流れてきたヨハン・シュトラウスを居間のピアノでなぞってみせる。類い稀な耳の良さと記憶力を持っていた。

依存症の自助グループのセッションにオレンジ色のド派手な衣装で現れたポップアイコン、エルトン・ジョンタロン・エガートン)が、ファシリテーターに促され自らの半生を回想するミュージカル仕立てのノンフィクション・ファンタジー映画です。

王立音楽院の入試からロックンロールとの出会い、米国R&Bグループのバックバンド時代、そして作詞家バーニー・トーピンジェイミー・ベル)とコンビを組んでソロシンガーとしてデビュー、ヒット曲を連発し、全米ツアーも大成功。と、ここまでで大体1時間。その後は酒とドラッグと金とセックスに溺れ、生活が荒れていく。お約束の展開ですが、惜しげもなく披露される名曲の数々の歌もダンスも明るく元気でカラッとしています。

エルトン・ジョンが動いているところを初めて見たのは、ザ・フーの『トミー』で「ピンボールの魔術師」を歌うシーン。デイヴィッド・ボウイマーク・ボランロキシー・ミュージックら、同時代の英国のグラムロックと比較してあまりにも正統的な音楽性とグラマラスで奇抜過ぎるビジュアルを当時結びつけることができずにいましたが、この映画で表現される小太りでハゲでド近眼のゲイという自身に対するコンプレックスでだいぶ理解できるようになりました。

街角の電話ボックスから母親に電話して同性愛をカミングアウトするときの難しい表情が印象に残ります。母親のリアクションは冷淡で「それは前から知っていた。認めるけれど、孤独な生き方を選択したことを自覚しなさい。誰もあなたを愛さない」と突き放します。これが呪いとなり、また一方で依存症から立ち直るきっかけともなる。母シーラ役のブライス・ダラス・ハワードは終始チャーミングです。

まだ誰でもない者同士が出会って、お互いの才能を信じ、苦しみながらも成功への階段を上る。名曲「僕の歌は君の歌」は朝のキッチンテーブルで生まれました。ハリウッドのライブハウス・トルバドールで「クロコダイル・ロック」を演奏する主人公も満員のオーディエンスたちも踵が宙に浮いている。音楽を聴きに行ってそんな気持ちになったことが僕にもあります。

映画のコスチュームとエルトン・ジョン本人のスナップを答え合わせのように並べて次々に映し出すエンドロールも楽しかったです。


2019年9月1日日曜日

CUICUIのSHINGEKI

9月1日はキュイキュイの日。西永福JAMで開催されたCUICUIのレコ発企画ライブCUICUIのSHINGEKIに行きました。

Joy DivisionNew Order が歌詞に登場するが、音の作りは Dislocation DanceA Certain Ratio 寄りの捻れたファンクテイストがある神々のゴライコーズ

男声Vo、女子Dr、Keyの3ピースユニットHappleのちょっとイッっちゃってる爽やかさに、四半世紀以上忘れていた Terry, Blair & Anouchka を思い出す。

ドラム、ベース、ギター、ボーカルにDJが入った5人組 Half Mile Beach Club のハウスビートはマッドチェスターの今日的解釈か。3アクトで1980年代を一気に駆け抜けるようなセレクションにCUICUIのセンスを感じます。

そして、Frankie Goes To Hollywood の "Relax" のSEでCUICUI登場。センターポジションが AYUMIBAMBIさん(Vo,Ba)からマキ・エノシマさん(Gt)に、これまでの白衣装から白紺ツートーンに。CUICUI第二章の幕開けを印象づける。

先行配信された「YouTubeのない時代」、新曲「アップデートを忘れずに」のメロウでスムースなサウンドが、ライブでは初期衝動全開のいびつでゴリゴリなロックに。なのにポップに弾けています。

「明日の中身を強制終了させないで」「言葉は通じても話がSiriに通じない」「いいね!が止まらない」「スマートフォンの向こうにはビール片手に特大スマイル/あの娘がまぶしくて」、頻出するテクニカルタームは奇を衒っているように見えて実は日常の人間関係がソーシャルメディア中心に置き換わった現代においてはむしろ切実で真摯な姿勢を示しているのではないでしょうか。

ERIE-GAGA様(Key)、AYUMIBAMBIさん、Ruì Suì Liuさん(Dr)のトリプルボーカルも冴えて、剛腕グルーヴに思わず笑ってしまいます。最高のバンドマジックをありがとうございました。