2024年4月28日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージック

夏日。『ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージックカワグチタケシ春の朗読に出演しました。

前回の出演は1月だったので、ずいぶん日が伸びました。お店に着くとちょうど一週間前に素晴らしいライブを披露してくれたノラバー店主ノラオンナさんが看板インコ梨ちゃん2号とお出迎え。そのライブの感想などをお伝えしているうちに三々五々お集まりになるご予約のお客様たち。

ノラバーのワンマン公演ではいつもお土産をご用意しています。今回は1999年に私家出版し現在絶版のカワグチタケシ第二詩集『International Klein Blue』25th anniversary 復刻版を作り、収録されている全11篇を前半に、後半は一昨年から書いている連作詩篇『過去の歌姫たちの亡霊』から朗読しました。

 2. *(ASTERISK)
 4. 灯台
 6. SAD SONG(悲しい唄)
 7. 約束の場所
 8. カーブ
10. 九月
11. 枯葉
13. Judy Garland

現存するだけで千五百年以上の日本語の詩歌の歴史の中で25年はとても短いですが、それでも語彙や形式や使用する技巧は変わりました。現在の声に乗せることでお客様に四半世紀の時を感じてもらえたらうれしいです。20代から30代前半に書いた詩ですっかり忘れていたものもいくつかありますが、今回あらためて朗読してみて、若い自分がんばっていたな、と思いました。

5月のノラバー御膳(4/28ですがフライング)は、ポテトサラダ、大根油あげ巻、たまごやき甘いの、きんぴらごぼうの定番おかずに、季節メニューのズッキーニチーズ焼き、かぶの甘酢漬、やきとり、たけのこごはんととうふのおみそ汁。落ち着く味に会話も弾みます。

30分間のインスタ配信ライブ「デザートミュージック」は『過去の歌姫たちの亡霊』シリーズの残り2篇と初期詩篇と最近作から2篇ずつ。


全世界のお茶の間からご視聴くださった皆様ありがとうございました。配信のあとは皆様お待ちかねのデザートタイム。固めのノラバープリンとバニラアイスに苺を乗せて、ノラバーブレンドコーヒーの芳醇な香りに、夜が更けるのも忘れておしゃべりが続くのでした。

昨年12月の『クリスマスイブの前の日に』に始まり、『3K16』『Early Spring Homecoming』と毎月続いたライブもこれでひと段落。次は6/16(日)渋谷Flying Booksで『SPOKEN WORDS SICK5』。さいとういんこさん新詩集出版記念ライブに出演します。この日は僕の59歳の誕生日。5/5(月)正午よりYahoo! パスマーケットにて予約受付開始します。

次回のノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージックの出演は真夏。8月11日(日)に決まりました。皆様お誘いあわせの上、是非お越しください。

 

2024年4月21日日曜日

風の街へ流れ星を見に行こう

雨の夜。吉祥寺STAR PINE'S CAFEで開催された『ノラオンナ58ミーティング デビュー20周年「風の街へ流れ星を見に行こう」』を見届けました。

ステージ中央にウクレレを抱いたノラオンナさん。両脇に橋本安以さん(Vn)と古川麦さん(Hr、Vo)、後方に宮坂洋生さん(b)、両サイドに外園健彦さん(g)と港ハイライトのメンバーでもある柿澤龍介さん(Dr)、藤原マヒトさん(Pf、Syn)というシンメトリーな配置のバンドが1曲目「流れ星」のイントロを奏でる。

2004年のデビュー盤のタイトル曲「少しおとなになりなさい」、「パンをひとつ」から、2021年の『ララルー』の最終曲「stay home」、アンコールの「風の街」まで、ステージで演奏された全69曲は、発表順、アルバムの曲順を基本的に踏襲するもの。オリジナルバージョンを尊重しつつ、この夜の特別なメンバーの色を加えたゴージャスなアレンジで、20年のキャリアとノラオンナさんの音楽の変遷を一息に振り返る。3時間半という長丁場でありながら、感覚的にはまさに「一息」でした。

物語性を強く感じる初期のナンバー、僕がリアルタイムで聴き始めた2011年の『いいわけイレブン』の声とウクレレだけで構築されるミニマリズム、オムニバス盤のみ収録の港ハイライト「あたたかいひざ」、2015年の『なんとかロマンチック』、2016年の『抱かれたい女』でカラフルなバンドサウンドを得て、2019年の『めばえ』の主題と変奏は2021年の『ララルー』で聖俗混交のアブストラクトな高みへと至る。

その変遷を貫くノラさんの声。体温。湿り気。音楽に対する揺るぎない愛情。音楽が純度を深めていく過程で「都電電車」や「風の街」のようにリリカルで美しい旋律がぼつりぽつりと産み落とされる。

「あなたがすき こんなにすき/いまいったきもちどおりに/つたわればいいのに」(こくはく)。「すき」というシンプルな一言にどれだけ複雑な感情が込められているか、そしてそれはひとりひとり違う。言葉に対する疑念とそれでも言葉に託そうという強い想いが解像度の高い歌詞を書かせる。「そのスープ/ぜんぶのみほしたなら/絶望に虹をかけて/わたしに会いにきて/あなたを受けとめて/孤独をさするの」(野菜のはしっこ)。まったくもって信頼できます。

オープニングを飾ったゲスト小西康陽さんが、ノラさんの「詩集『君へ』」の「髪」を「髭」に読み替えて朗読、「梨愛」のガットギター引き語りカバーの歌声も、訥々として味わい深いものでした。

 

2024年4月14日日曜日

プリシラ

夏日。ユナイテッドシネマ豊洲にてソフィア・コッポラ監督作品『プリシラ』を観ました。

1959年、旧西独ヴィースバーデンの米軍駐屯地のダイナーEagle Club。カウンターでコカコーラを飲む14歳のプリシラ・ボーリュー(ケイリー・スピーニー)は米国空軍将校の娘。当時24歳で既に大スターだったエルヴィス・プレスリージェイコブ・エロルディ)は陸軍に兵役中で、プリシラは軍楽隊員からエルヴィスの自宅で開催されるパーティに誘われる。厳格な両親をなんとか説得したプリシラはエルヴィスと出会い、お互い一目で恋に落ちる。

8年後の1967年にふたりは結婚し、1973年に別れる。エルヴィス・プレスリーの妻プリシラの14歳から28歳までを描いた作品です。

プリシラ、シーラ、サトニン(エルヴィスの亡母の愛称)という呼び名の変化でふたりの関係性の変化を表現し、ボビー・ダーリンファビアンが好きなゆるめのポニーテールは盛り盛りのビーハイブへ、エルヴィス好みの濃いアイラインを引くが、最後はナチュラルなヘアメイクに戻り、主人公の内面の確立を示唆する。

プリシラ本人が存命で本作の製作に関わっていることもあってか、あくまでも清楚に品良く描かれる主人公の隣でエルヴィスの不安定さが際立ちます。ナンシー・シナトラアン・マーグレットと浮名を流すが、プリシラに「私はあなたが欲しいし、あなたに求められたい」と泣いて懇願されてもキス以上の関係を結婚するまで持たない。いつもヤバめの男たちに囲まれ、プリシラの誕生日には宝石でデコレートした拳銃をプレゼントする。

くるぶしまで埋まる厚い絨毯を踏んでこちらに向かってくる深紅のペディキュアを塗った素足。カメラが上方にパンしてマスカラ、赤いリップ、赤いマニキュアを映す。このタイトルバックからドリー・パートンの "I Will Always Love You" が流れるエンドロールまで、ソフィア・コッポラ監督の美学が画面のありとあらゆるところに刻印されています。

内気で友達の少ない少女からシャネルのウェディングドレスの幼な妻となり、やがて自立した大人の女性へと移り変わる主演のケイリー・スピーニーの表情を美しくフィルムに定着させる。全衣装がかわいいです。

ロカビリー、ブリティッシュ・インヴェンション、フラワーチルドレンと時代の変化を映した選曲も最高にスタイリッシュですが、冒頭のホームパーティの"Whole Lotta Shakin' Goin' On" のピアノ弾き語り以外にエルヴィスの歌唱シーンがない、晩年のラスヴェガスのステージは逆光の後ろ姿だけというのも、ソフィア・コッポラだな、と思いました。

 

2024年4月11日木曜日

地球バンドで、君の音を聞かせて

花冷え。吉祥寺MANDA-LA2で開催されたmue活動23周年ワンマンライブ『地球バンドで、君の音を聞かせて』に行きました。毎年4月11日の周年ライブです。

年一回だったバンドセットのワンマンライブが2023~2024年は4回。7/11(火)『どんな気持ちも感じたままに踊る』、10/11(水)『思ったとおりにする魔法』、1/6(土)『冬ごもりの食卓』と同じ熊谷太輔さん(dr)、市村浩さん(b)、タカスギケイさん(g)の3人と1年間磨き上げたアンサンブルを堪能しました。

バンドメンバーに先導されて真っ赤なワンピース姿のmueさんが登場し、いつものように客電を点けてフロアを見渡し笑う。約2時間半、本編25曲、アンコール2曲のセットリストは23年というよりこの1年の集大成といえる現在と未来を見通したもの。2曲目「いまここに」はめずらしく四つ打ちだが8ビートを感じる重心の低いリズムセクション、新曲「イシキムイシキ」は魅惑の中近東音階、と新機軸を惜しみなく投入する。

パンデイロ叩き語りの「見つけ出して、ひっくり返す」は2015年の『ガラクタの城』以来かな。ジャジーな4ビートの「24 hours」で前半を締めます。

後半は『マイフェアレディ』の「君住む街角」をスタンディングで歌い、ピアノ曲のターンへ。饒舌な「外の声」から「まだどこにも書かれていないことをする」「大きな流れをつくる」「宇宙な生活」のアンビエント/サイケデリックなパートが僕的ハイライトでした。「都会のジャングル」ではmueさんのライブでは初めて体験するコール&レスポンスに驚愕し「ほんとうの夢をおしえて」の半音下降に心奪われました。

アンコールはチャップリンの「Smile」。これは2015年に谷中ボッサで開催したmueさんの洋楽カバーと僕の訳詞朗読のライブ『sugar, honey, peach +love』から(でもSmileだけmue訳なのです)。

今夜のmueさんは、歌声が本当によく通って、柔らかくてクリア。「23年続けているとは思えないフライヤーと態度」と自虐気味なMCがありましたが、ひとたび演奏が始まると会場一杯に響くその音楽は確信と冒険に満ちており、ステージにも客席にも多幸感が広がって、これは夢なのかな、と思う、魔法が確かに存在する東京の夜でした。

 

2024年4月10日水曜日

aespa: WORLD TOUR in cinemas

花冷え。ユナイテッドシネマ豊洲オ・ユンドンキム・ハミン監督作品『aespa: WORLD TOUR in cinemas』を観ました。

2023年2月に韓国ソウルから始まったワールドツアーは、日本、マレーシア、インドネシア、北米、南米、ドイツ、フランスなどを回り、ファイナルは9月28日のロンドン公演。そのライブ映像とメンバー個々のインタビューにより構成されたフィルムです。

「(コロナ禍に)ファンと断絶していたんだとステージに立って知りました」。aespa(エスパ)は韓国出身のカリナウィンター、東京出身の日韓MIXジゼル、中国生まれのニンニンの4人組。K-POPのガールクラッシュ、もしくはティーンクラッシュ系にカテゴライズされる。メンバー4人のアバターが存在し、メタバースと現実世界を一体化したパフォーマンスという近未来的なコンセプトで2020年にデビューした。

「私達は4人ともあまり体力はありません」。インタビューはステージとオフのギャップ、他メンバーへのコメント、ファンとの関係性が中心です。強めの楽曲、ステージ上のビジュアル(特にカリナさんのアバター感が半端なく美しい)とパフォーマンスの完成度が高まるほど、弱さも体温もある生身の人間としての4人を強く感じさせる。

ウィンターの確かな歌唱力、ジゼルのラップスキル、ニンニンのポジティブなバイブス。ステージ後方の巨大ビジョンは楽曲を補完するCG画像中心で、メンバーのアバターが映画館のスクリーンに映るのはデビュー曲 "Black Mamba" だけですが、それはライブパフォーマンスに対する自信の表れであり、aespaの人間宣言でもあると捉えました。

自身をステージ恐怖症だと言い「ステージに上がる前は緊張するけれど、ファンも緊張しているからつながりを感じる」というその客観性と愛。ライブを聴きに行くのは楽しみでもありますが、確かに独特の緊張感がありますよね。特に十代の頃などは。その名付けようのない感情を的確に言い当てるカリナさんの利発さに釘付けになる2時間でした。