2015年5月24日日曜日

百日紅 ~Miss HOKUSAI~

雨の予報が外れて東京は薄曇りの日曜日。コレド室町2 TOHOシネマズ日本橋で、杉浦日向子原作、原恵一監督の劇場版アニメ映画『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』を鑑賞しました。

「そのへんちきはおれの父ですのさ」。

舞台は文化11年(1814)の江戸両国。人気の絵師葛飾北斎(声:松重豊)は55歳、作画アシスタントでもある23歳の三女お栄(声:)と弟子の善次郎(声:濱田岳)の3人暮らし。食事は外食か出前、部屋は散らかり放題、しかし絵の注文は引きも切らさず。

妻こと(声:美保純)とは別居し、生まれつき目の見えない末娘お猶(声:清水詩音)は琵琶の修業で尼寺に預けてある。

「ぬしはきれいでおりゃれる。わっちよりよっぽどつやっぽいね」。

故・杉浦日向子といえば、1995年から10年続いたNHKの人気番組『コメディーお江戸でござる』で江戸の町人文化の解説をしていた印象が強く、原作漫画の考証は間違いない。アニメ化にあたっても、せっかちな江戸弁や優美な吉原の廓言葉が最大限活かされており、耳に心地良い。それだけにサウンドトラックが西洋音階の平板なもので、すこし残念です。雪を踏む音や雨の音、生活音の表現は素晴らしいので、音楽の使用量を控えめにするか、三味線や琴、琵琶など、当時の楽器音を取り入れたらよかったのではないでしょうか。

インターネットや携帯電話はもちろん、電気も通ってなかった時代ののんびりした時間感覚はコンパクトな尺のなかで良く伝わって来ます。200年前のことなんて200年後の未来と同じぐらい分からないと思うので、どうせ衣裳やセットに凝るのなら、時代劇のアニメ作品がもっとあってもいいですよね。

主人公お栄が目の見えない妹と大川(隅田川)をクルーズしていると意識が海に接続して大波頭が「神奈川沖浪裏」になるところや、北斎が弟子の画を評して「デッサンが甘いから立っているとまだいいが歩き出した途端に崩れる」的なことを言うと毛筆の絵がほろほろと崩れるカットなど、アニメーションならではの映像表現が素晴らしいです。

 

2015年5月23日土曜日

十三か月ともっと

プリシラ・レーベルは1998年創立のインディーズ出版社、経営理念は「ホチキスどめ詩集のトップブランドを目指して」。インクジェットプリンタとちょっとしたアイデアと丁寧な手仕事があれば、美しい書籍を作ることができる、というモットーで、自分が出したい本(とリーディングCD)だけを出版しています。

昨年末、石渡紀美さんから『十三か月』の草稿を預かって半年。高瀬久美さんに挿画のご協力をいただいて、このたび新刊のはこびとあいなりました。

そして本日、白山の老舗JAZZ喫茶映画館さんをお借りしてリリース記念イベント『十三か月ともっと』を開催しました。ミュージシャンならレコ発ライブというところですが、詩人ですから朗読会です。

“2011年の東日本大震災と、それに続いて起こった福島原子力発電所の事故は、恐ろしいことに4年経った今もまだ終わっていない。だけどもっと恐ろしいことは、私たちが(この国が、とは言わない)だんだんあの時に思ったことを忘れてきているということだ”(あとがきより)

ライフゴーズオン。あれから1年と1ヶ月のあいだに、花が咲き、花が散り、季節の匂いが移り変わった。けれどもそれは繰り返しのように見えて繰り返しではない。我々のパラダイムは様変わりしてしまったから。その機微を彼女は平熱の言葉で綴り、静かに声に出しました。それは本当の意味で詩人が為すべき仕事だと思います。13篇の詩は柱時計の音だけを伴奏に客席に沁み込み、朗読が終ると自然と大きな拍手が鳴りやみません。

3.11をテーマにしたフリーエントリーのオープンマイクでは4人の参加者が声を発しました。やさしい声、焦燥にかられた声、熱を帯びた声、小さな声。それぞれ異なる声が、塊ではなく個人へと届いたように感じています。

たくさんの方に読んでもらいたい詩集が出来上りました。石渡紀美詩集『十三か月』は、6月7日(日)『朗読の時間』@高円寺大陸バー彦六など、作者の出演するライブ会場のほか、7月5日(日)に両国江戸東京博物館で開催される詩のコミケ『TOKYOポエケット』のプリシラ・レーベルのブースでも販売します。

 

2015年5月21日木曜日

Poemusica Vol.40

五月晴れの第3木曜日。下北沢 Workshop Lounge SEED SHIPでPoemusica Vol.40が開催されました。詩を感じさせる音楽と音楽を感じさせる詩を楽しんでもらいたい、というこのライブシリーズの原点を強く意識させられ、とても刺激になりました。

mueさん(画像)が歌うオリジナル曲「カタルシス」は歌詞がオノマトペとダブルミーニングで構成されている。民謡のカバー「小笠原の南洋踊り」はポリネシア語起源らしいが、地元の人にも意味が分からないという。ときどき聞こえてくる片言の日本語は「私の心は/あなたのために/大変痩せた/死ぬかもしれません」「私はよく寝ました/昨晩夢を見ました/その時/私は大変よ/困りましたが/分かりません」。ポエジーが言葉の意味を超越して存在するという意味で音楽は詩以上に詩的です。

新譜が出たばかりのうみのてのKeyとしても活躍中の円庭鈴子さんは、ソロではガットギターのループ、カシオトーン、小さなおもちゃなどを用いた弾き語りです。ステージにいるという気負いを感じさせない自然な佇まいがとても詩的。たどたどしさが作られたものではなく、彼女の音楽に必然的に具わっている要素です。つたなさは時として美しい詩になりうる。はじめての試みという朗読も、良く見せよう、聴かせようという雑念が全くなくて素晴らしかった。

みぇれみぇれ君はPoemusica 2回目の登場です。前回はダブルベースとのデュオでしたが、今回はソロ。緻密に繊細に奏でられる音楽はポップで大らかでドリーミィ。聴いているとちょっとだけ身体が宙に浮かぶような、心地良くも不安定な感覚があります。過去何度か観た彼のライブは淡々とクールにグッドミュージックを紡ぐという印象でしたが、今回は驚くほどエモーショナルでした。彼も前のアクトから何か熱を受け取っていたのではないでしょうか。

僕は、5月3日に亡くなった詩人、長田弘さんが僕の生まれた年でもある1965年に出版した第1詩集『われら新鮮な旅人』から「言葉と行為のあいだには」「多島海」を朗読しました。そして円庭さんに、虫の出てくる自作詩を2篇「森を出る」「都市計画/楽園」と小田急線下北沢駅がまだ地下に潜る前のお話し「ANOTHER GREEN WORLD」。

それは調和であり、個の存在でもあり。ご来場のお客様には密度のある時間を提供できたのではないかと思います。今回ブッキングで多大なご協力をいただいたmueさん、ありがとうございました。SEED SHIP土屋さんワカちゃん、40回いつも見守ってくださって感謝しています。

6月のPoemusicaは僕の誕生日の2日後。またぐっと趣向を変えて、ポップな夜になりそうです。臼井ミトンさんとは2度目の共演。楽しみです。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

Poemusica Vol.41 ポエムジカ*詩と音楽の夜

日時:2015年6月18日(木) Open18:30 Start19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,200円・当日2,500円(ドリンク代別)
出演:澤寛子(Vocal)
    臼井ミトン(Vocal/Piano/Guitar)
    あすな(Violin)
    カワグチタケシ (PoetryReading)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


2015年5月3日日曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015 ②

"ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015" 2日目も晴天です。今日は2公演を聴きに行きました。

■公演番号:223 ホールB7(カント)
14:00~14:45
クラークヴィオラ・ソナタ
メシアン「アーメンの幻影」より
ラヴェルバレエ《ダフニスとクロエ》より(2台ピアノ版)
エリーナ・パク(ヴィオラ)、ボリス・ベレゾフスキー(ピアノ)、アレクサンドル・ギンジン(ピアノ)

まずパクとベレゾフスキーでクラークを。イギリスの女性作曲家の1919年の作品です。はじめて聴きましたが東洋的な旋律がなかなか面白い。コロニアリズムの終焉。そしてベレゾフスキーとギンジンでメシアンとラヴェル。ベレゾフスキーが流石の余裕。ビー玉のように透明で丸っこいメゾピアノから重金属の軋むようなフォルテまで、色彩豊かに聴かせます。

■公演番号:223 ホールB7(カント) 21:15~22:10
J.S.バッハヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 BWV1041
       ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV104
       2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043
梁美沙(ヴァイオリン)、イレーヌ・ドゥヴァル(ヴァイオリン)、
ロベルト・フォレス・ヴェセス指揮オーヴェルニュ室内管弦楽団

梁美沙さんは今回最大の発見、素晴らしかったです。第1番を梁美沙、第2番をドゥヴァル、そしてふたりのソリストで3曲目という構成でした。小柄で華奢なアジア女性ってだけでも応援したくなるのに、最初の一音を鳴らしたときの瑞々しい輝きといいったら! よく漫画なんかで、クラスでも目立たない子が楽器を演奏した途端に、サウンドホールから音符やらきらきらしたものやらシャボン玉みたいのやら飛び出してきてはじける描写ってあるじゃないですか。あれをリアルに目の当たりにしました。特に弱音のロングトーンは美しく、舞台を優雅に舞うように演奏する姿も、すべてが眩しく輝いています。

シュ・シャオメイの来日中止(足の怪我だそうです)で凹んだ気持ちが、おかげですっかり持ち直しました。他の作曲家も聴いてみたいです。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015は明日まで続きますが、僕は今日でおしまいです。来年のテーマは「自然」? 音楽に浸る初夏の数日がまた訪れることを楽しみにしています。

 

2015年5月2日土曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015 ①

若葉の頃。有楽町東京国際フォーラムへ。GW恒例のクラシック音楽フェス "ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015"。11回目の今年のテーマは「PASSIONS(パシオン)」です。

■公演番号:122 ホールB7(カント)
11:45~12:45
ベルク抒情組曲
シェーンベルク浄められた夜
アンドラーシュ・ケラー指揮
コンチェルト・ブダペスト

20世紀初頭のウィーンを代表するふたりの作曲家の代表曲。無調性、12音技法というと難解な印象ですが、実際にはスイートな旋律が絶え間なく繰り出される音楽です。ロマン派のような大仰さやこけおどし的な部分がなくてすんなり聴ける。東欧の若い小編成弦楽アンサンブルは細部まで神経の行き届いた繊細な演奏でした。

■公演番号137 ホールB5(ヒューム) 21:00~22:15
J.S.バッハゴルトベルク変奏曲 マタン・ポラト(ピアノ)

今年一番楽しみにしていたシュ・シャオメイが体調不良により来日中止に。最前列が取れていたのに残念です。代りにイスラエル出身の新進気鋭の作曲家兼ピアニストが起用されました。シュ・シャオメイのような厳粛さはありませんが、バッハの音楽の持つ荘厳さや甘美さよりも、メカニカルな機能美を前面に出したフレッシュな好演です。

屋外で食事を楽しむのには一番気持ち良い季節。中庭の屋台ワゴンがお祭り気分を盛り上げます。これだけ大規模なフェスがつつがなく進むのは会場ボランティアの皆さんのおかげですね。どうもありがとうございます。