2015年7月29日水曜日

金佑龍 2nd Full Album 「ling lom」 リリースツアー

連日の猛暑。熱帯夜。代官山UNITで開催された、金佑龍 2nd Full Album 「ling lom」リリースワンマン「~さあさあ、アルバム出すのかい。出さんのかい。アルバムツアーって謳っておいて出せないと思ったら出せるのかい。出せたらみんなにマジ感謝ツアー~」、素晴らしいライブでした。

新譜の中心メンバーである東横方面はペダルスチール宮下広輔PHONO TONESきわわ)、アップライトベース千田大介Natural Records)、ドラムス脇山広介tobaccojuice
BIGNOUNliquid)とgnkosaignkosaiBANDリトルキヨシトミニマム!gnk!)、コンサーティーナ、ウクレレ、コーラスmoqmoq (オカザキエミ)。それにボーカル・ギター金佑龍(キムウリョン)という6人編成で叩きだすパーティー・チューンの数々。小学生女子から還暦近い紳士まで、多彩な客層で埋められたフロアを揺らす。

フロントマンのウリョンくんは、天才肌で情緒不安定なところもありますが、そんな彼をバンドメンバーもフロアの観客も全員が笑顔で見守っている。それに応えてグッドメロディをアイデア溢れるアレンジメントで手渡します。

OP曲「combo!」のひとりビッグビート、拳を突き上げシンガロングした「See you letter」、永遠に続くかと思われたアウトロ「Pora Pora」、ラスト曲フィッシュマンズの「ナイトクルージング」のサイケデリックダブノイズ、アンコール「時が止まれば」の繊細な歌詞と歌声。テクノロジーとエモーション、神経質さと包容力、自信なさげなMCと確固としたパフォーマンス、細部にこだわる几帳面さと豪放磊落さ。振れ幅の大きさが不安定さを超えて奇跡的に美しいバランスに転化する感動的な瞬間がいくつもありました。

タイム感の異なるふたりのドラマーにギターループが重なり、実質トリプルドラムとなる展開の高揚感。アルバムでもほぼ全曲を小粋なウィットに富んだミュージシャンシップで飾ったmoqmoqさんの存在も大きかった。

彼のライブに行くのは2013年の前作大阪レコ発以来でした。放蕩息子の2度目の帰還を今度は東京で祝福できたことをとてもうれしく感じます。


2015年7月26日日曜日

フィクショネス詩の教室 @tag cafe

東京の最高気温は35.8℃。下北沢の書店フィクショネスの閉店から1年、その跡地からほど近いtag cafeさんで、1年ぶりの詩の教室が開催されました。

フィクショネスで14年間続けた詩の教室は、前半1時間を詩人の生涯と作品の紹介、技法や形式の解説に充て、後半は参加者の作品を合評するという形式でした。今回はすこし趣向を変えて、自作でも他作でも、参加者全員が好きな作品を1~2篇ずつ紹介するという詩の持ち寄りパーティに。

カフェのテーブルを囲んで紹介された作品はこのようなものでした。

「あるラブ・ストーリー」渡辺めぐみ
黒イチゴ摘みシェイマス・ヒーニー
「楽吉」カオリンタウミ
Pellicule不可思議/wonderboy
「小さな箱」バスコ・ポパ
明日戦争がはじまる宮尾節子
鹿村野四郎
リンゴまどみちお

これ以外にも参加者の自作詩がいくつも。自分の好きな作品を選んで、その魅力について話をするのはちょっと句会の趣きもあって楽しかったです。旧ユーゴスラヴィアの詩人バスコ・ポパの作品(山崎佳代子訳)をはじめて読みましたが、素晴らしかった。

実は詩の教室が終了してから1年、割合意識的に詩を読むことから遠ざかっていました。それまでの14年間は教室のために毎月3~5冊の詩集を隅々まで読んでいたので、その反動があったのかもしれません。ちょっとした飽和状態にあった。詩どころかこの1年で読んだ書籍は推理小説とノンフィクションばかり。

ひさしぶりの詩の言葉の奔流に自分が酩酊しているのに気づいたのは、自宅近くでよく会う他家の飼い猫の背中を撫でてほっと一息ついたときでした。

楽しかったな。企画してくださった詩の教室OGの杵渕里果さん、ご参加のみなさん、tag cafeさん、昼間激励の電話をくれたフィクショネス元店主で小説家の藤谷治先生、どうもありがとうございました! またこんな機会があったらうれしいです。


2015年7月18日土曜日

梅雨の梅干し

ザ・ラスト・デイ・オブ・レイニー・デイズ。下北沢leteで開催されたみぇれみぇれワンマンライブ『梅雨の梅干し』に行きました。

5月のPoemusicaではソロの弾き語りでしたが、今回はコントラバスひろせたつやさんとデュオで。「水槽の中の僕」から始まって、3枚のCD『茶の間ろけっと』『みぇれみぇれ/安生正人』『ひしゃげた音楽会』から、そして新曲も交え、アンコールの「空飛ぶベッド」まで全18曲。2時間があっという間でした。

「月から君に手を振る」「君の背中の羽も嫌いじゃない/長い長いはしごを伸ばせばそこに届くかな」(長い長いはしご)、「時間と ロールケーキ は/よく似ていると 思うん だ」(猫の知らない朝)、「月の上で待ち伏せて/君はもうすぐきちゃうんだ」(待ち伏せ)、「ピストルを鳴らす朝 武器を捨ててこの星を出た 服に花を忍ばせて」()。

彼は自分の作品を「おはなし」と呼びます。表現をする、作品を創るときに人が自我から逃れることはとても困難ですが、視座を思い切り高く置くことによって、あるいは微生物や素粒子の世界に入って行くことによって、反転した普遍性を得る。というのがファンタジーの持つ効果であるとしたら、生まれ持った優しい声質に、適度にねじれた甘い旋律、意外性のある和声、ループマシンの逆回転音、トイピアノ、カズー、おもちゃのラッパ、KAOSSILATOR などを総動員して、それを体現しようとしているように見える。

その浮遊感をさらに押し上げたり、時には地上にどっしり繫ぎとめたりするのが、ひろせたつやさんのコントラバスです。今回の「梅雨の梅干し」がみぇれみぇれとしての事実上のラストライブとのことですが、名前を変えて今後もふたり(またはソロ)で活動していくそうです。

最近すこしご無沙汰していましたが、2011~2012年頃よく通ったleteはやっぱり良い箱。木や枝を活かした空間は天候や湿度によって微妙に響きが変わります。坂道を通り過ぎるノイズも混じる。決して抜けの良い箱ではないのですが、すこしくぐもった響きを持つ彼らの音楽にぴったり合っていました。

 

2015年7月11日土曜日

ガラクタの城

2日続きの晴天で東京は真夏日に。新高円寺STAX FREDmueさんの弾き語りワンマンライブ「ガラクタの城」。自宅で歌っているみたいなのが理想の弾き語りというmueさん。普段とは一味違う雰囲気の2部構成です。

冒頭の数曲は、得意の複雑で華麗なギタープレイを封印して、ベース音のシングルノートをエイトビートで刻む。それが逆に音楽の骨格を際立たせて聴かせる。「愚痴っぽい? 文句っぽい歌詞を聞かせるのは悪いかな、と思って」普段あまり演奏しない曲を中心に。

不満や理不尽な想いをポジティブに昇華してポップに仕上げるmueさんのソングライティングに隠されている(が微かに滲み出してしまう)エッジはこういう反骨心で出来ているのか、という確認。

昨年4月のワンマンライブ以来のループマシン使いもこなれて、ギターのリフとボイスパーカッションのタイムが合わずステージ上でリアレンジする場面も。彼女生来の音楽的瞬発力の強さに加え、ミュージシャンの脳内や試行錯誤の過程を覗く面白さがあります。

ライブはいつも明確なコンセプトを持って作り込み、バンドセットも弾き語りもはっきり意図が感じられる演奏をするmueさんですが、今回はあえてダラダラとやるという。それもひとつの意匠です。レアなセットリストやひとりのミュージシャンの多面性を楽しめるというだけでなく、演奏する側にとっても聴く側にとっても意味のあるエクスペリメンタルな行為なのではないでしょうか。こんな楽しいガラクタなら是非また見たいと思いました。

 

2015年7月10日金曜日

島しょの旅人 ~House in Island~

東京はひさしぶりのお天気。気温が急に上がりました。浅草吾妻橋のうんこビルといえばアサヒビールの本社ですが、あのフィリップ・スタルクの金色のオブジェが乗っているのは本社ビルではなくアサヒ・アートスクエアが入っている文化施設なのです。

会場に入るとほんのり材木と藺草の匂い。フローリングの床にはまばらに畳が敷かれ、大人も子供も靴を脱いでくつろいでいます。

Little Creatures のギター/ボーカルの青柳拓次さんとは1999年にポエトリーリーディングのコンピ盤でご一緒したご縁で、彼が山﨑円城さんと主宰していたオープンマイクBOOKWORMに何度もお邪魔しています。

川村亘平斎さんは、インドネシアとフィリピンとマレーシアの間にある架空の小さな島、ワラケ島の伝統音楽の演奏家、ガムラン、パーカッション、キーボード、影絵をひとりで操ります。その声はボーカルというより架空言語のスポークンワーズ。土着的な旋律と口承文芸を自在に行き来する。

それぞれのオリジナル曲を交互に演奏するスタイルですが、沖縄やハワイの音階を取り入れたアコースティックギター弾き語りの優美で滋味深い青柳さんのソロ曲に川村亘平斎さんがガムランや影絵で彩りを添え、川村亘平斎さんのループ主体の音響に青柳さんのギター、ウクレレ、シンセサイザーのオーガニックなサウンドが絡むことで、大地から発してスペイシーな高みへと観客を連れて行きます。途中ヒューマンビートボックスAFRA氏もハプニング的に登場して会場を沸かせました。

1980年代にブライアン・イーノが、デイヴィッド・バーンジョン・ハッセルらとともに第三世界のビートを模倣して、白人主義的コロニアリズムと批判されたのも今や昔。エスニック・ミュージックはアジアの片隅で、こんなにも静かに可憐に花開いたのだなあ。終演後、会場を出て大川を渡る涼しい夜風に吹かれながら、そんな感慨に浸りました。


2015年7月5日日曜日

第19回TOKYOポエケット

小雨降る両国へ。毎年7月に江戸東京博物館で開催されるTOKYOポエケットにプリシラ・レーベルのお店を出してきました(TOKYOポエケットとプリシラ・レーベルのあらましについてはこちらこちらをご参照ください!)。

僕にとってはライブの物販コーナーが何十もあって、それに特化したフェスみたいなものです。ご来場のお客様も詩集購入目的の方が多いいのですが、お目当てを決めている方もいれば、会場をのんびり巡りながら気になるものがあれば立ち読みしたり作者本人と話したりという人もいます。

弊社プリシラもリピーターのお客様、新規のお客様にお立ち寄りいただきました。雨のせいもあってか過去最高とはいきませんでしたが、売上目標達成です。新刊の石渡紀美詩集『十三か月』もたくさんの方に手に取っていただきました。どうもありがとうございます。

1999年の初回に比べるとブースの数も倍増し、商品も売り方もみなさん工夫を凝らしています。ちなみに今年のお隣は文豪の江戸型彫版画を取り扱うむかで屋さん。蔵書票を購入。素敵です。

従来は午後からだった開催時間が今回から10時から16時半になったのもよかったです。午前中はお天気が悪く出足は決して良くありませんでしたが、遠方からの参加者も最後まで残れるので途中でブースが歯抜けになることもなく。

ポエトリーリーディングのゲストのおふたり橘上さん、しもやんさんのパフォーマンスもタイトでアトラクティブでチャーミングでした。

詩人のパブリックイメージといえば、我儘、気まま、プライドが高くて、変なところに細かいくせに、時間にはルーズ、みたいなところだと思いますが、そんな人たちをしっかり取りまとめて16年間休まずに運営してきた主催者、ヤリタミサコさん川江一二三さんというふたりの先輩詩人にリスペクトを贈りたいと思います。来年もまた七夕の頃にお会いしましょう!