2020年2月29日土曜日

VIOLA VIOLA ~2つのヴィオラのコンサート

triolaの初期メンバーで、現在は 蓮沼執太フィル や F.I.B Journal Ghetto Strings でも活躍中のヴィオラ奏者手島絵里子さん。オルタナティブで実験的なユニットと並行して、オーセンティックなクラシック音楽のリサイタルも不定期に開催しています。

ピアノとデュオ弦楽三重奏など、いくつかのアンサンブルを聴きに行ったことがありますが、今回は深堀理子さんとヴィオラ2棹というレアな組み合わせを楽しみにしていました。

J.ブラームスワルツ op.39-15 "ワルツ集"より
W.F.バッハ2つのヴィオラの為の二重奏曲 第2番 ト長調 Fk.61
B.バルトーク2つのヴィオラの為の44の二重奏曲より
・作曲者不詳:猫ふんじゃった
J.S.バッハメヌエット BWV Anh.114
F.W.シューベルト野ばら D.257
・F.W.シューベルト:魔王 D.328
W.A.モーツァルト2つのヴィオラの為のソナタ K.292
・アンコール アイルランド民謡:ロンドンデリーの歌

会場のカルラホールは世田谷区経堂の住宅街に建つ個人邸の地階。無造作に置かれたスタインウェイ。簡単な曲紹介なども交えながら、カジュアルな雰囲気のサロンコンサートという趣です。

1曲目のブラームスはNHK-Eテレ『2355トビーのテーマでも使われていたキャッチーなメロディでつかまれ、アンコールのロンドンデリーの歌(ダニーボーイ)まで、終始安定感のある演奏でした。

同じでヴィオラでもふたりの音色とタイム感が異なり、深堀さんの滑らかな音運びに対比し、バルトークや魔王のバッキングのリフではザラっとしたノイジーなボウイングで攻める手島さんはオルタナ魂を感じさせ格好良かったです。

「なかなか曲数が少なくて」とおっしゃっていましたが、あたたかくてちょっととぼけた風合いのヴィオラの音色が堪能できるこの組み合わせをまた聴いてみたいと思いました。

 

2020年2月23日日曜日

THE NORTH WOODS

春一番の翌日。六本木ミッドタウン富士フイルムフォトサロン東京で開催中の大竹英洋写真展『THE NORTH WOODS ノースウッズ ― 生命を与える大地』を鑑賞しました。

写真家大竹英洋さんとの出会いは古く、2002年頃。当時原宿明治通りのセレクトショップの従業員サロンで隔月開催されていたBOOKWORMです。その頃既に北米の森で写真を撮っていた大竹さんの物静かな語り口と過酷な野外撮影の話のギャップが深く記憶に刻まれていました。

先月のBOOKWORMでカズエさんからこの個展のことを聞き、十数年ぶりに会いに行きました。

大きな作品は長辺2メートルを超えようかというサイズのオリジナルプリントはネットや印刷物とは異なる感動がありました。アメリカ北部からカナダ、北極圏近くまで広がる広大な森林。野生動物たち。凍てつく冬景色。春の訪れを告げる可憐な花々。先住民アニシナベの暮らし。細部まで正確に合わされたフォーカスに大竹さんの几帳面な性格が表れ、被写体を見つめる眼差しは優しく、且つ適切な客観性を持つ。

写真とは現実世界にフレームを当てて切り取るもの。鑑賞する我々が写真家の提示するフレームに共鳴するとき、プリントされた画面を超えて五感が拡張し、写真家が現実に観た世界を体感する。暖房の効いたギャラリーにいながら、極寒の大地に僕は立っていました。

特に印象に残ったのは、レッド・パイン(アカマツ)の樹皮のレンが色と幼いオジロジカが目を閉じて新芽の生えた地面に伏せている写真です。「じっと気配を消すフリーズという行動で、オオカミの棲む森で生き延びるためのの本能だ」というキャプションを読み、以前BOOKWORMで大竹さんから聞いた、森の中で何日も身じろぎせずムース(ヘラジカ)を待つ話を思い出しました。

その話をしたところ「いまでは鳴き真似でヘラジカを呼べるようになりました」と笑う大竹さん。フィジカル的にもメンタル的にもハードに違いない現場をいくつも乗り越えて、初対面の20代の繊細さを保ちながらも数段タフになった姿がまぶしかったです。

 

2020年2月16日日曜日

となりの猫のたのみごと

雨上がりの昭和通りを銀座二丁目で渡って、ギャラリー銀座へ。佐久間真人展『となりの猫のたのみごと』の最終日にお邪魔しました。

ノスタルジックにくすんだ色彩で描かれるメカ。風景に点在する猫たち。変わらない安心感、遊び心と生真面目さ。

鯨統一郎著『テレビドラマよ永遠に 女子大生 桜川東子の推理』の表紙に描かれた丸く膨らんだブラウン管のガラス面に、同シリーズ第一作『九つの殺人メルヘン』の表紙画が反転して映り込んでいるという手の込みよう。

佐久間さんのなかで自作群をつなぐ物語があり、20年超のキャリアを紡ぐ縦糸になっています。旧国鉄の電気機関車をモチーフにした「EF10 ぶどう色の機関車」という作品も印象に残りました。

毎年2月の一番寒い時期に開催される個展に通って10年以上経ちました。最近数年は書籍の表紙絵や雑誌の挿画のお仕事がとても増え、書店で目にする機会がありますが、こうしてまとまった数の作品をかためて鑑賞することができるのはやはりいいものです。

佐久間さんは愛知県在住。個展最終日ということで、作家ご本人が在廊されていましたので、ご挨拶とすこしお話させていただきました。

 

2020年2月14日金曜日

TRIOLA 02/14 lete Shimokitazawa

雨上がりの夜に、小田急線に乗って。下北沢leteTRIOLAを聴きに行きました。

2010年にneutron tokyo(現白白庵)で開催された足田メロウ展『mellow tone』のオープニングパーティで共演して以来、2012年までの旧体制、4年のブランクを経て2016年以降の新体制と何度もライブに足を運んでいます。2019年は7年ぶりのアルバムリリースイヤーであったにもかかわらずタイミングが合わず。1年ぶりになってしまいましたが、今回もまた新しいTRIOLAを体験することができました。

1曲目「Yellow Boys」の水琴窟を想起させる不規則なピチカートのループから重層的に歪んだ全音符のつらなりへなだらかにつながり、エンディングは巻き取るように鮮やかなカットアウトで締める。つづいてアルバム『Chiral』の「Twin Spirals」から数曲シームレスに。

波多野敦子さん(作曲、5弦ヴィオラ)が描く脳内ビジョンを須原杏さん(ヴァイオリン)とふたりで実現させていく過程で生じるコレスポンダンス、アクシデントを再度作品にフィードバックさせていくスタイルが更に磨かれ、緻密なスコアに基づきながらも偶発性と新鮮な驚きに満ちた音楽が目の前で展開されます。

「雨」のしわがれたボウイング、「新曲2」のスローダウンさせた破調、幾重にも深くエフェクトのかかった「Parade2」と完全生音で演奏される「Masdevallia」の断崖のようなコントラスト。アンコールの「Coral」の主題はトレモロに置き換え。旧曲のリアレンジは定石を逸脱すればするほどクラシカルに響く。

酔わせるのではなく、思考に作用し覚醒させる音楽。最高難度の技がつぎつぎに繰り広げられ、着氷が乱れることがあってもそれすらスリリングなアトラクションにして魅せる。僕が体験したどのライブでも異なる旬を表現してきたトリオラ。現在は初期衝動と円熟味のバランスが絶妙と言えるのではないでしょうか。

 

2020年2月8日土曜日

詩詞奮人

東京メトロとJR線を乗り継いで西千葉へ。およそ35年ぶりに降り立った街は佇まいがほとんど変わってないように見えます。駅前に千葉大学があり、その存在感が大きいせいかもしれません。

千葉大から道路を挟んですぐ近く、カフェ平凡で開催された詩と詞のライブ『詩詞奮人』第10回に出演しました。ご来場のお客様、共演の沼田謙二朗さん(画像)、主催川方祥大さん、オープンマイクご参加の舟虫/TAP/GAMAKATSUさん、カフェ平凡さん、どうもありがとうございました。

昨年10月に予定していた日程が台風19号の上陸により延期になったものですが、どのアクトからも今日のライブに対するコミットメントが強く感じられ、またそれがおのおのの良さを活かした方法で表現さており、お客様にもあたたかく受容していただけて、結果高揚感のあるライブになったと思います。

40分の持ち時間で下記の作品を朗読しました。

ANOTHER GREEN WORLD
新しい感情
Doors close soon after the melody ends
・日々の美(石渡紀美
音無姫岸田衿子
都市計画/楽園
・永遠の翌日
吉本隆明
・白木蓮(新作)

偏見、差別、殺戮、死体、腐乱、埋葬といった強めのワードを持ち、普段のライブでは終盤の山場に置くことの多い長尺の詩篇を、あえてかためて前半にもってきました。後半はカバー多めのセットです。

「日々の美」はプリシラレーベルで現在制作中の石渡紀美さんの新詩集『「ママは、ばらの花がすきだな」と彼女は言った。』収録作品。手のひらにのるような本当に美しい一篇。

1月に越谷で沼田謙二朗さんにはじめてお会いしたときに好きな詩人とおっしゃっていた吉本隆明の初期の代表作「恋唄」三篇。それに対して僕が好きだと挙げた岸田衿子の散文詩を朗読しました。どちらも1950年代、会場の家屋が建った頃に書かれた作品です。

先週書いた新作「白木蓮」は、越谷のライブで沼田さんが歌った「三千年紀の鳥」の歌詞の一部を引用しています。ソネットの14行中、4行が沼田さんの言葉です。

書棚に囲まれて朗読するのは一番好きなシチュエーション。石油ストーブの燃える匂いが三角地に建つ築60年余の元蕎麦屋の木造建築に満ちてとても懐かしい気持ちになりました。

遅ればせながら2020年の初ライブとなりました。ありがたいことに今年も楽しみなライブが既にいくつか決まっています。詳細は都度お知らせいたします。どうぞよろしくお願いします。