2020年8月15日土曜日

パブリック 図書館の奇跡

敗戦記念日。TOHOシネマズ日本橋エミリオ・エステベス監督・脚本・主演映画『パブリック 図書館の奇跡』を観ました。

「本と人間が好きならあなたは図書館員に向いています」。アメリカ合衆国オハイオ州シンシナティ。主人公スチュワート・グッドソン(エミリオ・エステベス)は公立図書館のリファレンスカウンターに座る中間管理職。

外は大寒波。市が用意しているシェルターは満杯で、路上生活者の凍死が続出している。馴染みの老ホームレス、ジャクソン(マイケル・ケネス・ウィリアムズ)が図書館利用者である70人以上のホームレス仲間に呼びかけ「閉館時間後も退去させないでほしい」と主張し3階閲覧室を占拠する。グッドソンは一瞬の躊躇ののち協力するが、市長選とマスメディアの思惑が交錯し予想外の大事件になる。

社会派シチュエーションコメディといっていいと思います。人種差別、格差社会における公共施設の役割、情報公開とプライバシー、マスメディアのコマーシャリズムとテーマは重たいですが、科白と演出が軽妙、穏やかで落ち着きと品があります。

1980年代に思春期を過ごした人にとって『セント・エルモス・ファイア』はひとつの指標。青春群像劇の主要人物のひとりを演じたエミリオ・エステベスがあの不安定なまなざしそのままに歳を重ねているのが感慨深いです。オピオイド依存の息子を探す人間味溢れる交渉人役にアレック・ボールドウィン、嫌みな検事役にクリスチャン・スレーターと当時の人気同世代俳優が脇を固める。

ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』が引用されます。リーダー格のジャクソンはじめホームレスの多数が退役軍人。世代的には湾岸戦争従軍者でしょうか。志願兵が貧困層中心であること、戦時PTSDの後遺症による社会不適合など、複合的な課題を内包している。一方、テレビニュースを観た一般市民が自主的に支援物資を寄付するなどノブレス・オブリージュ的な面も描きます。

エミリオ・エステベスのブレーク作『ブレックファスト・クラブ』が、高校図書館を舞台にした作品であること、最後に大合唱されるジョニー・ナッシュの "I Can See Clearly Now" が常夏の国ジャマイカの冬季五輪ボブスレーチームの映画『クール・ランニング』のテーマ曲(こちらはジミー・クリフカバー)であること、など洒落た仕掛けも。

タイトルバックエンドロールは(妄想の)レーザー・アイを持つホームレスを好演しているシカゴのラッパーライムフェストの楽曲です。