早い時期にチケットを買ったのに忘れていた映画、シネ・リーブル池袋で、なかむらたかし/マイケル・アリアス監督作品『harmony』を観賞。
舞台は近未来。世界戦争と感染症による大災禍により従来の国家体制が崩壊し、生命主義に基づく管理社会ではWatchMeと呼ばれる端末が人体に埋め込まれ、政府のサーバーに接続して全てのメディカルデータが管理されている。人々は痛みを感じることも、病気に罹ることも、老いることもない。太ることさえ許されない。
そんな世界のありようを憎んだ女子高生ミァハ(声:上田麗奈)は親友のトァン(声:沢城みゆき)とキアン(声:洲崎綾)に自殺を教唆し自ら命を絶つ。生き残って体制側の監視官になったトァンは13年後に帰国するが、ランチ中に目の前でキアンが自殺する。その同時刻に世界中で数千人の自殺者が出る。そこには死んだはずのミァハが関与していた。
2冊の長編小説と未完の作品(後に円城塔が加筆して完結)を残して30代前半で早逝したSF作家伊藤計劃原作のアニメ化第2弾。非常に難解で複雑な設定と物語を手際よくコンパクトにパッケージした印象です。淡い色彩を基調にアクションシーンをスタイリッシュに描く手腕は『鉄コン筋クリート』で魅せたアリアス監督でしょう。手持ちカメラを模したような画角の揺れが精妙でリアルです。
物語はニジェールに始まりチェチェンに終わる。ゲーテ(若きウェルテルの悩み)やジェイムズ・ティプトリーJR.(たったひとつの冴えたやりかた)、ミシェル・フーコー(バイオポリティクス)などの引用もさりげなく気が利いている。
僕自身は大した反抗期もなく、のほほんとした十代を過ごしていましたので、世界を憎悪するみたいな経験を持ち合わせていないのですが(むしろ自分の才能を過信し世界を小馬鹿にする世間知らずでした)、多くのティーンエイジャーが通過する感情であり、そこに起点を置いたことで、幾多のディストピア小説から跳躍して、より多くの共感を得ることができたのでしょう。
実際、公開から1ヶ月以上経っているのに、映画館は満席でした。そして観終えて映画館から出てくる人たちがそれぞれ微妙な表情を浮かべていたことが、この物語の持つ多面的なメッセージ(もしくは多義的なディスコミュニケーション)を象徴しているように思えました。
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