2025年9月23日火曜日

マリアンヌ・フェイスフル 波乱を越えて

秋晴れ。角川シネマ有楽町 "Peter Barakan's Music Film Festival 2025" で、サンドリーヌ・ボネール監督作品『マリアンヌ・フェイスフル 波乱を越えて』を観ました。

「自分に何が起こるかわかるような気がするの。少し退屈で現実的ではないの」。19歳のマリアンヌ・フェイスフルがカメラに向かって答える。1946年末、英国軍諜報部員の父とユダヤ系オーストリア人の母の間でロンドンで生まれたマリアンヌは、17歳で結婚し男児をもうける。

夫の知人のパーティでザ・ローリング・ストーンズの当時のマネジャー、アンドルー・オールダムにスカウトされ芸能界入り。1964年、新進気鋭のジャガーリチャーズによる "As Tears Go By" でレコードデビューする。次々にヒットを飛ばすが、1966年に離婚し、ミック・ジャガーの恋人となる。

2025年1月に78歳で亡くなった英国の伝説的スターを二世代下のフランス人俳優が2017年に撮ったTVドキュメンタリーです。撮影時マリアンヌは70歳。「初期の活動は省略しないで。誇りに思っているの」と自身のアイドル時代を肯定するが、ミック・ジャガーの恋人だった期間はツアーもレコーディングも行動を共にするものの1970年に破局、薬物依存に苦しみホームレス同然の路上生活から発見される1975年まで8年間自身の作品は発表していない。

「私は傲慢の罪を背負っている。七つの大罪のうち嫉妬以外は全部かしらね」と豪快に笑い、映画俳優でもある女性監督が大先輩に切り込む。業界歴の長い主人公マリアンヌは、被写体に遠慮して掘り下げの甘いドキュメンタリーは面白い作品にならないと知っている。だからどんなに答えづらい質問にも真摯に向き合い、素の姿を晒そうとするのだが、どうしても耐えられない一線があり、憔悴し「カメラを止めて」と懇願する。監督は質問を止めるが、カメラは回し続ける。そこにレジェンドの真の素顔が覗く。62分というコンパクトなサイズながら、波乱万丈過ぎる半生を冷徹な眼差しで記録したスリリングな佳作といえましょう。

1980年に名盤 "Broken English" で本格的にカムバックしたとき、煙草とアルコールとヘロインで潰れた咽喉から絞り出すドスの効いたダミ声に驚きました。未だ依存症からは脱却していないと言いながら、小規模なクラブでワインを嗜む品の良い観客の前でジャズやブルーズを歌う晩年の姿に、小さくても平穏な光を見たように感じました。

 

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