梅雨冷えの曇り空。ヒューマントラストシネマ渋谷で、STUDIO 4℃制作、渡辺歩監督作品『海獣の子供』を観ました。
江ノ電沿線に母親(声:蒼井優)と暮らす中学2年の琉花(芦田愛菜)は、身長こそ低いが俊敏性と跳躍力のあるハンドボール部のゴールゲッター。夏休み初日の練習試合中に足を掛けたチームメイトに対しシュート時に顔面肘打ちで報復し、顧問(渡辺徹)から部活に出ることを禁じられる。
制服のまま向かった別居中の父(稲垣吾郎)が務める水族館のバックヤードで、ジュゴンに育てられ10年間前にフィリピン沖で保護されたという少年、海(石橋陽彩)に出会う。
ひと夏のガール・ミーツ・ボーイが隕石の落下を経て、あやゆる海の生き物たちを統べる「祭り」へ、そして壮大な宇宙誕生譚へ回帰する物語。その後半の難解さを否定的に捉えるか、映像美を讃えるかで評価が二分しているという印象です。実際に上映後に「環境映像だったわ」と言うヲタクの声も聞きました。
確かに、アニメーション表現は緻密且つ精妙で、実写に寄せたリアリズムというよりもアニメーションならではの描写を試み、その多くは成功しています。セメントの防波堤に容赦なく降り注ぐ真夏の陽光、水族館の水槽の分厚いガラス越しに泳ぐ魚たち、夕立に打たれ肌に張り付く制服のシャツなど、特に映画前半の地上場面を丁寧に描いたことが、後半の海中、宇宙のダイナミズムに説得力を加えているように感じます。
『鉄コン筋クリート』(2006)『ハーモニー』(2015)でも最先端の作画を提示したSTUDIO 4℃が今作でもいい仕事をしている。久石譲のスコアも米津玄師のエンディングテーマも見事な出来。
ストーリーに関しては『2001年宇宙の旅』や『地球交響曲』と比較する向きもありますが、僕は『ツリー・オブ・ライフ』『クラウドアトラス』の系譜かな、と思いました。「虫も動物も光るものはみんな、見つけてほしくて光っているんだ」「風はあらゆる海の記憶を孕んでいる。それを私たちは詩や歌にしてきた」科白が大変詩的なのと、琉花が海に惹かれた過程が説明不足、海という名前と一般名詞の海が紛らわしいのですが、難解さって案外そんなことなのかも。
そして何よりも特筆すべきは芦田愛菜です。広瀬すずも上白石萌音も上手だとは思いますが、俳優本人の顔がどこか現れてしまう。その点、芦田愛菜は完全に役に同化しており、琉花の声しか聞こえてこない。朝ドラ『まんぷく』では神々しいまでの母性を感じさせるナレーションをしていましたが、ここでもその天才性を遺憾なく発揮しています。
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