2023年4月2日日曜日

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

日曜日。ユナイテッドシネマ豊洲にてダニエルズダニエル・クワンダニエル・シャイナート)監督作品『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を観ました。

舞台は現代の合衆国西海岸、春節の前日と当日。中国系移民エヴリン(ミシェル・ヨー)はコインランドリーの経営者。税務申告のために膨大な領収書と格闘している。優しいが頼りにならない夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)に離婚申請書を提示され、中国から呼び寄せた父ゴンゴン(ジェームズ・ホン)は認知症、一人娘のジョイ(ステファニー・スー)が同性愛者であることを受け入れられない。

米アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、主演女優賞、助演女優賞、助演男優賞、7部門を受賞した本作。何度も観た予告編は賞を獲るような映画とは思わなかったのですが、マルチバースとカンフーアクションという組み合わせに魅力を感じました。実際に観てみると滅法面白い。近年の作品賞受賞作品では『ムーンライト』(2016)、『グリーンブック』(2018)、『パラサイト』(2019)にも共通するマイノリティが主要キャストの作品であり、2011年のカンヌ受賞作テレンス・マリック監督の『ツリー・オブ・ライフ』のコメディ版ともいえましょう。

平凡な移民一家が耳に端末を装着するとマルチバース(並行宇宙)を行き来して、世界を救済するための闘いに巻き込まれる。人生の節目で異なる選択をした自分たちが生きる別の人生は華やかで甘くほろ苦く、実生活ではいつもイライラしているエヴリンが優しく落ち着いている。

「『正しさ』とは臆病者が考え出した小さな箱。私はその窮屈さを知っている」と言うジョブ・トゥパキは善悪や目的を持たないマルチバースにおける破壊神。娘ジョイの姿をしている。主人公エヴリンが、対峙するジョブ・トゥパキと税務監査官ディアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)を赦し、抱擁することで争いを終わらせる。異文化の存在を肯定し包摂する姿が、トランプ政権下で分断されたアメリカの理想を取り戻したいアカデミー会員たちの心に響いたのだと思います。

様々なかたちの機能不全家族とその修復もしくは終焉を描いてきたアメリカ映画をアジア目線で戯画化した、ドビュッシーの「月の光」が随所で効果的に響く本作品は意外にも感動作でした。

 

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