十六夜の夕。ユナイテッドシネマ豊洲でデクスター・フレッチャー監督作品『ロケットマン』を観ました。
1950年代、ロンドン郊外の中流住宅街。レジナルド・ドワイト少年の父親は英国空軍将校、母親は専業主婦。両親はそっけなかったが、同居する母方の祖母には愛されていた。ある日ラジオから流れてきたヨハン・シュトラウスを居間のピアノでなぞってみせる。類い稀な耳の良さと記憶力を持っていた。
依存症の自助グループのセッションにオレンジ色のド派手な衣装で現れたポップアイコン、エルトン・ジョン(タロン・エガートン)が、ファシリテーターに促され自らの半生を回想するミュージカル仕立てのノンフィクション・ファンタジー映画です。
王立音楽院の入試からロックンロールとの出会い、米国R&Bグループのバックバンド時代、そして作詞家バーニー・トーピン(ジェイミー・ベル)とコンビを組んでソロシンガーとしてデビュー、ヒット曲を連発し、全米ツアーも大成功。と、ここまでで大体1時間。その後は酒とドラッグと金とセックスに溺れ、生活が荒れていく。お約束の展開ですが、惜しげもなく披露される名曲の数々の歌もダンスも明るく元気でカラッとしています。
エルトン・ジョンが動いているところを初めて見たのは、ザ・フーの『トミー』で「ピンボールの魔術師」を歌うシーン。デイヴィッド・ボウイ、マーク・ボラン、ロキシー・ミュージックら、同時代の英国のグラムロックと比較してあまりにも正統的な音楽性とグラマラスで奇抜過ぎるビジュアルを当時結びつけることができずにいましたが、この映画で表現される小太りでハゲでド近眼のゲイという自身に対するコンプレックスでだいぶ理解できるようになりました。
街角の電話ボックスから母親に電話して同性愛をカミングアウトするときの難しい表情が印象に残ります。母親のリアクションは冷淡で「それは前から知っていた。認めるけれど、孤独な生き方を選択したことを自覚しなさい。誰もあなたを愛さない」と突き放します。これが呪いとなり、また一方で依存症から立ち直るきっかけともなる。母シーラ役のブライス・ダラス・ハワードは終始チャーミングです。
まだ誰でもない者同士が出会って、お互いの才能を信じ、苦しみながらも成功への階段を上る。名曲「僕の歌は君の歌」は朝のキッチンテーブルで生まれました。ハリウッドのライブハウス・トルバドールで「クロコダイル・ロック」を演奏する主人公も満員のオーディエンスたちも踵が宙に浮いている。音楽を聴きに行ってそんな気持ちになったことが僕にもあります。
映画のコスチュームとエルトン・ジョン本人のスナップを答え合わせのように並べて次々に映し出すエンドロールも楽しかったです。
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