「B級映画社モノグラム・ピクチャーズに捧ぐ」。主人公ミシェル・ポワカール(ジャン=ポール・ベルモンド)は、高級車を盗んで転売することで生計を立てている。マルセイユで盗んだアルファロメオをパリに運ぶ田舎道で、検問を強行突破してオートバイの警官に追われ、グラブコンパートメントに見つけたリボルバーで警官を射殺して逃げる。
「俺はバカだ。だからやらなくちゃならない」。パリに帰ったミシェルはセフレのリリアン(リリアン・ダヴィッド)のアパルトマンを訪ね、仕事に向かうリリアンが着替えているあいだに財布から金をくすね、キオスクで新聞を買って、馴染みのカフェでビールを飲む。南仏で知り合ったジャーナリスト志望の新聞売りアルバイトのアメリカ人パトリシア・フランキーニ(ジーン・セバーグ)と再会し、行動を共にする。
1960年に公開されたゴダール監督第一作が、リチャード・リンクレイター監督の『ヌーヴェルヴァーグ』の公開に合わせて再上映されています。2020年に60周年記念でオリジナルネガから4Kレストアされたモノクロ映像とサウンドトラックは細部までクリアで、40年前にVHSで観たときとは比べものにならないです。当時は革命的だった路上のゲリラ撮影もジャンプカットも第四の壁も現在では見慣れた表現手法になりましたが、野心溢れる映画作りの疾走感は2026年の目で見ても際立ちます。
アメリカのハードボイルド映画を原型にしていますが、衣装や音楽のチープシックな雰囲気はフランスならでは。ポワカールが(そしてラストシーンではパトリシアが)親指で唇を拭うアクションは『マルタの鷹』のハンフリー・ボガートを真似ていますが、本家はそこまで頻繁にはしないので、『ヌーヴェルヴァーグ』でオーブリー・デュランがくどいほどベルモンドの顔真似をするのはオマージュなんですね。
警官殺しで指名手配されても呑気なポワカールのチェーンスモーカーぶりは、現代の目で見ると常軌を逸した依存で、背中を撃たれてよろけながら走っても煙草を吸い続ける。やたら新聞を買うのも現代のスマホ依存(=情報依存)が重なります。
そしてなにより、ジーン・セバーグの輝きが半端ない。このとき20歳。セシルカット(髪型)は前出演作『悲しみよこんにちは』の役名から来ていますが、ベリーショートの金髪でNew York Herald Tribune 紙のロゴTシャツやクリスチャン・ディオールのボーダーワンピースを小粋に着こなします。細過ぎないのがいい。
ハードボイルドや西部劇、フォークナー『野生の棕櫚』(悲しみと虚無しかないのなら悲しみを選ぶ)、ディラン・トマスの『仔犬のような芸術家の肖像』、モーツァルトのクラリネット協奏曲。サンプリングカルチャーは日本においては、高橋源一郎を通過して、渋谷系に結実した。
トリュフォーの『大人は判ってくれない』と並びヌーヴェルヴァーグの誕生を告げた『勝手にしやがれ』は邦題のセンスが異次元。当時の配給会社の宣伝担当者に心より喝采を贈りたいです。原題 "À Bout De Souffle" を直訳すると「息切れして」、英題は "Breathless" 。ポワカールが運転しながら観客に向かって「海が嫌いなら、山が嫌いなら、都会が嫌いなら、勝手にしやがれ」というシーンがあります。蛇足ながら『大人は判ってくれない』の原題 "Les Quatre Cents Coups" は「400発の打撃」(The 400 Blows) です。


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