2026年7月10日金曜日

トロフィー

真夏日。テアトル新宿孫明雅監督作品『トロフィー』を観ました。

木製の床に西日が差している。バレエシューズの足元、軽やかなターン。カメラは視線を上げ、生徒たちの全開の笑顔を写す。舞台は現代、荒川沿いの東京下町。東京朝鮮第一初中級学校の中等部3年生のソヒ(恒那)は在日コリアン4世、朝鮮舞踊部に所属している。全国大会に向けて顧問(ちすん)が発表したテーマは「芽生え」、主役に親友リョニ(原田花埜)が選ばれ、ソヒは二番手を務めることになった。

地元の公立中学との交流会が開かれ、ペアを組んだ日本人中学生未来(梨里花)とソヒはBTSの同じバッジをつけていることで意気投合する。未来は観光でソウルに行ったことがあり、BTSの東京ドーム公演にも当選していた。ソヒの父サンジュ(井浦新)は朝鮮民主主義人民共和国籍でソヒたちの学校の校長だが学校経営は厳しく、大韓民国籍の母ミリョン(市川実和子)はパートで家計を支えているが、故障した洗濯機を買い換えられないほど困窮している。

未来はソヒにハングル語を教わるかわりにフリマサイトの使い方を教え、ソヒの自宅にある中古品を売ってファンクラブの会費とライブのチケット代を作ろうと提案する。父が所有していた北朝鮮歌謡のCDが5,000円で売れたことで勢いづいたソヒは、父が引き出しに保管していた勲章を無断でオークションに出品したところ50,000円の値が付いた。

長編第一作となる孫監督は大阪出身の在日コリアン3世。是枝裕和監督の弟子筋です。大きな事件は起きないが、ささいな表情や仕草に登場人物たちの感情の揺れを映すことに長けています。未来を初めて自宅に招いたとき、帰宅したサンジュの表情の変化を見て「未来も在日だよ、言葉はアレだけど。ソン・ミレイ」と噓をつく。そう言われた未来の微妙な表情。母ミリョンは嘘をすぐに見抜き、未来の帰宅後、コインランドリーの帰り道にソヒに尋ねるが決して責めない。

テレビからミサイル発射のニュースが流れ、家族の食卓に割り切れない空気が流れる。排外主義者のYouTubeを視聴して「北朝鮮って悪い国なの?」と小学生の弟テイリ(千就)に聞かれ「北朝鮮って言うなよ。ウリナラだよ」と答えるサンジュ。ミリョンは「アッパ(パパ)は遠くを見ているの。昔はそれがかっこいいと思ってたんだけどね。足元も見てほしいよね」と言う。3世である親世代は、自身のコミュニティを「同胞」と呼ぶ。かつて住居や就職で差別された過去があるのだ。

是枝組の常連俳優であるYOU、未来の祖父で鉄工場の社長を演じるきたろう。ふたりのベテランの示す矜持がいい。主役の恒那さんの透明感。思春期の生意気さと不安定な感情。冒頭の朝鮮舞踊の練習場面では貼り付けたような不自然な笑顔が、主役リョニの怪我により不意に任されたセンターの重圧と自身の嘘によって失われるが、ラストの競技会の舞台では心からの表情に感じられました。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿