1959年フィラデルフィア。Please welcome Billie ”God Bless The Child” Lady Day Holiday! と紹介され低いステージに上がりビリー・ホリデイ(オードラ・マクドナルド)が "I Wonder Where Our Love Has Gone" を歌い出すと、モノクロ画面がカラーに、古いレコード盤のノイズがハイファイに変わるオープニングの演出に引き込まれる。
「もう髪をクチナシの花で飾らない、私はニュー・ホリデイ。評論家はレディ・イエスタデイと呼ぶわ。昔のほうが良かったって。昔の私と今の私を比べるのが彼らの仕事だからかまわない。私は歌いたい歌を歌うだけ」。アルコールとドラッグでパフォーマンスが荒れているが、時折見せる輝きがある。足許はおぼつかなく、歌詞を忘れ、バンドメンバーの名前を忘れる。
松竹ブロードウェイシネマと銘打たれたこのシリーズは、ブロードウェイミュージカルを劇場公開用にマルチカメラで撮影したもの。一昨年『ジャニス・ジョプリン』を鑑賞しました。本作はビリー・ホリデイ(1915-1959)の生涯最期のステージをモチーフに、MCの台詞として自身のライフストーリーを語るという趣向です。
ピアノトリオをバックにしたほぼ一人芝居であり、純白のドレスに身を包んだオードラ・マクドナルドの鬼気迫る熱演は、上映時間いっぱい歌い切れるのか、本当に倒れるんじゃないか、とスクリーン越しであることを忘れるほどはらはらしました。
ピアニストのジミー・パワーズ(シェルトン・ベクトン)が優しい。具合が悪くなり一度楽屋に下がったビリーが愛犬ペピを抱いてステージに戻って来る。数分で活力が戻り "Don't Explain" を歌い上げる。注射痕が見える左腕が観客の目に触れないようにアームドレスをそっと上げて隠してあげるパワーズ。
Strange Fruit、Gloomy Sunday、Lover Man といったマイナーブルーズを得意とする彼女が最期のセットリストに選んだのが、Strange Fruit 以外メジャーキーの楽曲ばかりというのがなんとも切ないです。
2021年のドキュメンタリー映画『Billie ビリー』、2022年の劇映画『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』と毎年のように映画化されるビリー・ホリデイ。僕も昨年「糸杉と星の見える道」という彼女をモチーフにした詩を書きました。
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