2023年3月6日月曜日

皆さま、ごきげんよう


18世紀末のパリ。2人の官吏に断頭台に連行されるバルタザール男爵(リュフュ)。広場で編み物をしながらギロチン刑を見物する女たちが歓声を上げ、男爵の首はパイプを咥えたまま切り落とされる。

20世紀の東欧のどこかの国で国軍と民兵が内戦を繰り広げている。制服の兵士につぎつぎに撃ち殺される民兵たち。正規軍が民家に踏み込んで略奪を行い、女たちは逃げ惑う。

現代のパリ。アパルトマンの管理人(リュフェ)は銃器の闇取引をしている。人骨収集と修復が趣味の人類学者(アミラン・アミラナシビリ)とは腐れ縁の親友だ。覗き魔の警察署長(マチアス・ユング)の娘(フィオナ・モンベ)はヴァイオリニスト。ローラーブレード窃盗チーム、家を建てる男(マチュー・アマルリック)、ホームレス、娼婦たち。

現在89歳のイオセリアーニ監督が81歳で撮った現時点における最新作は、過去作のモチーフがそこかしこに織り込まれたセルフオマージュともいえる作品です。メインプロットは管理人と人類学者、二人の老人のアンビバレントな関係性だが、没落貴族も底辺を生きる者たちもフラットに描かれ、彼や彼女らに向ける客観的なまなざしが優しいです。

車道に落とした何かを拾おうとしてロードローラーに轢かれぺしゃんこになった男をアパルトマンのドアの下の隙間から入れろと女房に言われ、蛸煎餅状の遺体を運ぶ男たちに突風が吹いて全員の帽子が飛ばされるシークエンス、人類学者に携帯電話で罵詈雑言を浴びせる管理人に駅の反対側のホームにいる人類学者の声が近づきカメラがパンすると姿が映り電話を投げつけるシーンが笑える。

冒頭のギロチンがラストシーンの魚の調理につながり、伏線回収を無意味化するのが痛快です。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿