ジョージアの黒海沿岸サメグレロ地方の農村に4人の音大生と1人の画学生を乗せたバスが到着し、畜産農家の2階を借りて夏合宿が始まる。ヴァイオリン、チェロ2人、チェンバロでバロック時代の楽曲を演奏するカルテット。ベランダで合奏を始めると村の子どもたちが大勢集まって来る。酒場に買い出しに行けば「まあ一杯飲んでいけ」と大人たちにも歓迎される。
イオセリアーニ監督がパリに制作拠点を移す前、ジョージア時代最後の作品は、のどかさな田園の空気の中で都市から来た若者たちと村人を簡潔且つ細かい気配りの効いた演出で描くタイトル通り詩的な映画です。
本当の主役は彼らを迎える農家の長姉で三つ編みの美少女エドゥキ。監督の娘ナナ・イオセリアーニが演じています。ローティーンらしいはにかみと家業を手伝って客人をもてなすことに対するプライド。学生たちの自由な空気に憧れながら、彼らが村を去る日が必ず訪れることを知っている。思春期前半の揺れる心情を奇跡的なタイミングでフィルムに定着させています。豪雨の午後に暇を持て余した学生5人とエドゥキがテーブルゲームに興じるシーンにはノスタルジアを掻き立てられました。
ハイコントラストなモノクロ画面は、どのカットも写真集のように美しい。よく飲み、よく笑い、よく喧嘩し、よく仲直りする村人たち。食卓にはいつもポリフォニー(ジョージアの伝統的多声合唱)がある。村人たちの歌声と学生の楽器演奏以外の劇伴を使用せず、線路の響き、豚や鶏の鳴き声、コルホーズ(ソ連の集団農場)の送迎トラックのエンジン、雨だれ、葉ずれ、川のせせらぎ、など生活音を丁寧にすくい取ったサウンドトラックも素敵です。今回の映画祭で観た9本のうち一番好きな作品になりました。
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