2024年3月17日日曜日

Chiminと塚本功

彼岸入り。所沢音楽喫茶MOJOChiminさん塚本功さんを聴きに行きました。

Gibson ES-175Fender Hot Rod Deluxeに直挿しした塚本功さんは、フロントピックアップひとつで、抒情的なクリーントーンから激しい歪みまで、エフェクターなしでもフィンガーピッキングで多彩な音色を奏でる。

僕がその特徴的なギタープレイを初めて認識したのは2006年リリースの松田聖子トリビュートアルバム "Jewel Songs" に収録された "Sweet Memories" です。微熱を感じる柔らかい音色とメロウなタイム感に痺れました。ドビュッシーハース・マルチネスのカバーを含む全10曲。唯一無二のギターを初めて生演奏で聴けてうれしかったです。

長い空白期間を経て昨年11月にライブ活動を再開したChiminさんは前回と同じ加藤エレナさん(key)、二宮純一さん(g)、井上"JUJU"ヒロシさん(fl, sax, per)の3人のサポートで。1曲目は「茶の味」、次が「時間の意図」という愛聴するアルバム『住処』と同じ曲順のスタートにまず震えました。

谷川俊太郎作詞、武満徹作曲の反戦歌「死んだ男の残したものは」はビリー・ホリデイの "Strange Fruits" にも匹敵する超重量級のマイナーブルーズですが、Chiminさんの澄んだ声で歌われると、漆黒の闇の先に小さな灯りがともっているのが見えるようです。

「垂れる髪を後ろで束ねて/私はきれいな手でお茶を入れる」(茶の味) 「あたためられて殻が破れて/触れるもの全てが新しい/めぐりめぐるものがあるのなら/この小さな枝に祈りましょう」(住処) 

自作曲の歌詞も素晴らしい。2010年の『流れる』以降のChiminさんの歌詞には喜怒哀楽を直接的に表現するワードがほとんど使われていない。にもかかわらず、すべてのエモーションは彼女の歌声が代弁している。Chiminさんは理由を歌わない。にもかかわらず、我々オーディエンスは彼女の歌声の抑揚の中に理由を見つける。

「まるで昔のことのように言うけど/本当は今も何も変わらない//夜が明けて私は見てる/祈りの先にあるものを」(まるで昔のことのように)。「なぜ」だけではなく、目的語「何を」も明示されない。にもかかわらず、彼女の歌声を通して我々は無加工の感情と温度を同時に受け取ることができる。

「日本語の歌の可能性を追求したい」と言い、詩や短歌を読んで自由を感じているという。それらを胸の底に沈殿させて掬う上澄みによって新しい歌が生まれることをとても楽しみにしています。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿