2024年2月9日金曜日

夜明けのすべて

大福の日。ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場三宅唱監督作品『夜明けのすべて』を観ました。

「一体私は周りにどんな人間だと思われたいのか」。藤沢美紗(上白石萌音)は重いPMS(月経前症候群)に十代から苦しめられ、生理前になるとイライラし感情をコントロールできなくなる。新卒で入社した企業で上司にキレ、どしゃ降りの夕方に駅前のベンチでずぶ濡れで横たわり警察に保護される。処方された薬で会議準備中に眠ってしまい、そのまま退職した。

数年後、再就職したのは子供向けの顕微鏡や望遠鏡を作る町工場。そこで異常に不愛想な後輩社員山添孝俊(松村北斗)が入社する。いつも炭酸水を飲んでいる山添くんのペットボトルのキャップを開ける音にブチギレ、怒鳴り散らす藤沢さん。

そしてバトンは渡された』の瀬尾まいこの原作を『ケイコ、目を澄ませて』の三宅唱監督が撮った本作は、『ケイコ、目を澄ませて』と同じく16mmフィルムが使用され、柔らかい光に満ちています。

「男女間であっても苦手な人であっても助けられることがある」。過呼吸の発作を起こした山添くんを自宅まで送った藤沢さんが「もしかしてパニック障害?」と尋ね、自らも持病を明かす。電車と理髪店に恐怖心を抱く山添くんの髪を藤沢さんが切って失敗して山添くんが大爆笑する。この2つのシーンで距離を詰め互いの理解者になるが、友だちや恋人にはならない。「山添くん」「藤沢さん」と呼び合う距離感がちょうどいい。共通の過去を持つ大人二人、町工場の社長(光石研)と山添くんの元上司(渋川清彦)が優しい。山添くんの恋人(元?)役の芋生悠さんも抑えた良いお芝居をしています。

「夜明けは多くの命を生んだが、夜は地球の外にも世界があると教えてくれた」という終盤の台詞は、苦境に立つからこそ他の人の痛みにも寄り添うことができる、という監督からのメッセージに聞こえました。

 

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