2023年12月21日木曜日

私が私である場所

冬至前日。アップリンク吉祥寺にて今尾偲監督作品『私が私である場所』を鑑賞しました。

プロデューサーの榎本桜が質問に答える。「売れることは大事ですよ。俺も20代の頃は早く売れたかった」。「売れたいですよ。キムタクさんや広瀬すずさんみたいに唯一無二の存在になりたい」と映画の小道具係で脇役を兼ねる伊藤由紀が扇風機の回る自室で言う。

先月観た『シンデレラガール』の撮影期間である2022年11月11日~20日に俳優を中心とした関係者を追ったドキュメンタリーフィルムです。

「セリフを覚えるときは声に出さない。頭の中に自分の声で再生する」。撮影時16歳だった主演俳優の伊礼姫奈は子役から数えて10年以上のキャリアを持つ。

「自分がいい芝居をしたときって、自分のエゴを捨てたときなんですよ」。主役のオーディションに落ちるが、小道具係として作品に関わり続け、セリフひとつの看護師役をキャスティングされ、その悔しさを隠すことなくカメラに向かって吐露して涙し、唯一の出演場面の自分の演技に納得できず涙する。感情の揺れと矛盾と逡巡を監督も見逃すことができず、このドキュメンタリーの主役に躍り出た。映画製作のドキュメンタリーという制約の中、おそらく今尾監督の当初の意図を超えて、脇役である伊藤由紀が輝き出したのだと思います。

その過程に関わる膨大な人数の各々異なる思いを背負って一本の映画が作られる。脚本が存在し、ある程度決められたゴールを目指して撮影が進む劇映画とは異なり、ドキュメンタリー制作は作り手と被写体の即興性溢れるスリリングなセッションなのだな、と思いました。

 

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