今年80歳になるブライアン・ウィルソン(左利き)はThe Beach Boysのリーダー。弟2人デニスとカール、従兄マイク・ラヴ、同級生アル・ジャーディンの5人バンドで、ソングライティング、編曲、プロデュース、ベース、ボーカルを担当していた。米国ポップミュージックの最重要人物のひとりです。
ミュージシャンのインタビューといえば自宅のカウチやスタジオのコンソール前が定番だが、本作では旧知のジャーナリスト、元ローリングストーン誌編集者ジェイソン・ファインが運転するポルシェでロサンゼルスのゆかりの地を巡りながら自らのキャリアを語る助手席のブライアンをダッシュボードからとらえた映像が大半を占める。
両作とも本人が制作に携わっているため、そのライフストーリーは伝記映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』(2015)と大きく異なる点はないが、早逝した弟デニス・ウィルソンが生前唯一リリースしたソロアルバム "Pacific Ocean Blue" を初めて全編聴くシーンやThe Beach Boysの "Holland" (1973)のために渡欧をセッティングしたジャック・ライリーが3年前に亡くなっていたことを知らされたときの落涙など、胸に迫るシーンがあります。
アメリカのショービズ・ジャーナリズムといえば、歯に衣着せず、聞きにくいところもずけずけ切り込むという印象がありますが、本作では長く統合失調症を患うブライアンの精神状態に配慮してか、高圧的な父親からの虐待、薬物依存、"Pet Sounds"、"Smile" 制作時の他メンバーとの確執、精神科医ユージン・ランディとの共依存とも洗脳ともとれる関係性とそこからの離脱といったダークサイドについてはあっさり触れられる程度でした。
同時代、次世代のミュージシャンのコメントでは、クラシック音楽の指揮者グスターボ・ドゥダメルが異色で新鮮なのと「南カリフォルニアについて再定義し、世界に広めた」と評するブルース・スプリングスティーンがロジカル&クール且つリスペクトに溢れている。音源では、スタジオのドン・ウォズが "God Only Knows" のマルチトラックマスターテープからコーラスパートを抜き出して聴くシーンが白眉です。
The Beach Boys の最大の特徴は1960年代のロック界の主流であった社会や体制に対する反抗的な態度を前面に出さず、むしろ積極的に資本主義市場経済にコミットしたことだと思います。Rebelというアウトプットはむしろ健全であり、表面的なRebelよりも音楽のQualityを純粋に突き詰めていったブライアン・ウィルソンは、深い闇を内面に抱えてしまった。若さと成熟の軋みによって生まれた作品群が時代を超えてエヴァーグリーンな輝きを放つのは皮肉でもあり希望でもあります。
0 件のコメント:
コメントを投稿