ザ・ビーチボーイズのリーダーでほとんどの楽曲を手掛けているブライアン・ウィルソンの1966年と1985年をポール・ダノとジョン・キューザックの2人が演じる、本人公認の伝記映画。2つの時間軸が映画の中で並行します。
3人兄弟と従兄弟と幼馴染で結成したバンドが絶頂期を迎えた1960年代に、長男ブライアンはパニック障害でツアーをスポイルし、スタジオに籠ってポップミュージック史上に輝く名盤『ペット・サウンズ』を制作します。しかしそれまでのビーチボーイズにはなかった(実は前々作あたりから兆候はある)内省的な深みと豊かで複雑な構造を持つ音楽はツアーから戻った他のメンバー、特にマイク・ラブ(ジェイク・アベル)に理解されず、セールス的にもイマイチ。強圧的な父親から受けるストレスも重なり、マリファナからLSD、コカインとドラッグに依存するようになる。
作詞家トニー・アッシャー(ジェフ・ミーチャム)にドラマーのハル・ブレイン(ジョニー・スニード)を紹介するシーンから始まる『ペット・サウンズ』制作時のスタジオ風景が素晴らしい。「神のみぞ知る」作曲時のブライアンのたどたどしいピアノが、フレンチホルン、フルート、ティンパニ、チェロ、プリペアドピアノ、テルミン、クラクション、犬2匹など、それまでのロックンロールの常識を覆す手法で、立体的に時に即興的に構築されていく瞬間に立ち会えた喜び。このシーンだけでも観る価値があります。
ハル・ブレインといえば1960年代後半に米西海岸で録音された主要なレコードのほとんどで叩いている偉大なスタジオミュージシャンですが(ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズのドラマーといえばピンとくる方も多いはず)、彼がブライアンの音楽の最大の理解者だったことがわかります。ヴァン・ダイク・パークス(マックス・シュナイダー)とマイク・ラブの確執も。
ブライアンの最初の妻マリリン(エリン・ダーク)は当時16歳。サイケデリックなプリントのワンピースが似合ってとてもキュートです。
手持ちカメラを多用した1966年のソフトでノスタルジックな色調と対比して、再起不能かと言われていた1985年は解像度の高い画面。精神科医ユージン・ランディ(ポール・ジアマッティ)から妄想型統合失調症の診断を受け薬漬けになったブライアンを2人目の妻となるメリンダ・レッドベター(エリザベス・バンクス)が救い出すという、まあ普通のラブストーリーです。
カリフォルニアの光と闇。突出した才能とそれゆえの孤独。クリエイティヴィティとショービズ。ビーチボーイズのファンはもちろん、そうでない方でも楽しめる見応えのある映画です。
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