1924年3月30日日曜日。主人公ジェーン・フェアチャイルド(オデッサ・ヤング)は孤児院育ち。テムズ河畔の郊外ビーチウッド邸に暮すニヴン家でメイドをしている。ニヴン夫妻がシェリンガム、ホブデイ、ニヴンの地元三名家のガーデンランチに出かけるためオフになったジェーンは、仕事中は編み込みにしてまとめている髪を解き、身分違いの恋人ポール・シェリンガム(ジョシュ・オコナー)のもとへと自転車で風を切って向かう。
エバ・ユッソン監督の前作『バハールの涙』は、イラクのクルド人自治区の砂漠地帯でイスラミック・ステートと戦う女性兵士とフランス人女性戦場写真家を描いた作品でした。転じて本作では100年前の英国の緑豊かな田園を背景にゆったりとした時間が流れる。しかしながら、そこには第一次世界大戦の影が差し、ニヴン家の二人息子とシェリンガム家の三人兄弟のうち兄二人は戦死しており、一人生き残った三男ポールも心に深い傷を負っている。上流階級といえども、上流階級だからこそ、若きジェントルマンたちは志願兵となって戦場に向かった。
主人公ジェーンを演じたオーストラリア出身の24歳、オデッサ・ヤングの魅力が際立つ。午後の日が差す部屋でジェーンの前にポールがひざまづき、ゆっくりと靴を脱がし、靴下を脱がすクローズアップは、性交シーンよりエロチックです。情事のあと、一人で邸宅に残されたジェーンは全裸で広間や図書室を探索し、書架からスティーヴンソンの『誘拐されて』を手に取る。そのまま厨房でミートパイを手づかみで食べ、壜ビールをらっぱ飲み。げっぷすらもチャーミングに魅せる。
若き日の恋人との秘密の逢瀬、メイドを辞め書店員から作家になったジェーンの束の間の幸福な家庭生活、数々の賞を受けて作家として成功したが偏屈な老境のジェーン。3つの時系列を観客が違和感なく往来できるのは監督の手腕。ヘアメイクや衣装スタッフも良い仕事をしています。
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