ブラジルの民間信仰カンドンブレの雷神から名付けられたTHEシャンゴーズ(The Xangos)は、まえかわとも子さん(Vo)、中西文彦さん(Gt)、尾花毅さん(Gt)の3人組。パーカッションやピアノが加わる演奏形態もありますが、今日はオリジナルメンバーで演奏しました。
東京でライブをするのは知るかぎり5年ぶり。普段は湘南~伊豆エリアを活動拠点にしています。オルタナ・ボッサ・トリオと呼ばれるそのサウンドは、MPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)をベースにしながら爆発的なグルーヴによってアンビエント/音響派の領域にまで逸脱していく唯一無二とも言える存在です。
まえかわとも子さん(左利き)は弾き語りも素敵ですが、THEシャンゴーズでのパフォーマンスは格別。パッションとエモーションを解放させて多幸感が溢れる。尾花毅さんは最近導入した8弦ギターで時にベースラインを強調したソリッドなリフで楽曲の基盤を構築し、ガットギターをエフェクターに通した中西文彦さんの演奏は、エキセントリックな外見に関わらず柔らかなタッチで優しい音色。
ミルトン・ナシメントほかのカバーは、ブラジルの軍事独裁政権時代に検閲をくぐり抜けた楽曲群を時勢を反映して並べた。THEシャンゴーズの演奏は生もの。何度も聴いたオリジナル曲も毎回異なるアンサンブルで即興的に再生される様を眼前にするのは奇跡的な瞬間に立ち会う興奮があります。まえかわさんも多彩な声色でふたりのギタリストとスリリングなインタープレイを聴かせる。
強烈なグルーヴの中にも、祈りにも似た静謐な美が感じられる演奏でした。まえかわさんの産休期間を経て、久方ぶりの東京ライブに対する客席の期待感を斜めに横切り、それに応えてより一層熱を上げるフロア。音楽を演奏する喜び、聴く・感じる喜びに溢れた幸福な時間です。
ゾーンに入ったときのまえかわさんの歌は人間が歌っているように聞こえない。虫の鳴き声、鳥のさえずり、狼の遠吠え、風が揺らす麦の穂、陽光、大地への求愛行動。2012年4月、Poemusica Vol.4でその声に触れてちょうど10年。来し方行く末に思いを馳せずにいられませんでした。
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