LA郊外、ウェストハリウッドから蛇行する山道を走るとローレル・キャニオンに着く。ハワイで結成されたモダンフォークカルテット(MFQ)が1963年にこの谷間に移り住んだことから伝説的な西海岸ロックの歴史が始まった。
サイケデリックなフォークロックサウンドでデビューしたが鳴かず飛ばずだったザ・バーズは当時新人スターだったボブ・ディランのボツ曲「Mr.タンブリンマン」に目をつけレコーディング、シングルは大ヒットとなる。
奇才ニール・ヤングを擁するカナダ/アメリカ混成のバッファロー・スプリングフィールド。黒人ボーカリスト、アーサー・リーをフロントマンに据えたラヴは人種差別の根強い南部では演奏できない。サンフランシスコ出身の彼らはザ・バーズの影響から脱却しようともがく。
1960~70年代前半の米国音楽の名だたるミュージシャンが暮したローレル・キャニオンを主人公にしたドキュメンタリーフィルムです。オリジナルパンク世代の僕はでどちらかというとUK寄りの音楽嗜好なので、CSN&Yの成り立ちやザ・バーズのカントリー化の経緯など、人物相関と音楽的影響関係を知ることができました。
社会や政治とは無縁のお花畑だったキャニオンの住民も、公民権運動やベトナム戦争によって考えることを始め、作品に反映させる。マリファナはコカインやスピードに置き換わり、商業主義がじわじわと押し寄せる。シャロン・テート殺害事件やオルタモントの悲劇が起こり荒廃していくキャニオン。ジム・モリソンとママ・キャスの死によってその輝きは失せる。
ザ・バーズのロジャー・マッギンの12弦ギターに象徴されるキラキラとしたサウンドのなかでザ・ドアーズが異彩を放っています。そしてジョニ・ミッチェルの音楽の別次元の独創性とクオリティ。友人宅の庭でジョニ・ミッチェルのオープンチューニングに釘付けになるクリーム時代のエリック・クラプトン。キャニオンに住む誰もが彼女の才能に恋をしていたのではないかと思います。
ライブ映像やプライベートフィルム、MFQのベース奏者ヘンリー・ディルツとザ・モンキーズのピーター・トークのガールフレンドだったヌリット・ワイルド、ふたりの写真家による瑞々しくもリラックスした表情の素晴らしいポートレートで構成されている。
リンダ・ロンシュタットの声は現在のものを使用していると思われますが、存命のミュージシャンも画像は当時のもの。ヘンリー・ディルツとヌリット・ワイルドだけが現在の姿でスクリーンに登場しています。
現在の年老いた姿を映さないことでノスタルジアから逃れ、あたかも数年前のことのように錯覚するという逆説。オーストラリア出身の女性監督のその時代に対するリスペクトと優しさを感じました。
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