1973年のドイツ連邦共和国(旧西ドイツ)第四の都市ケルン。16歳の高校生ヴェラ(マーラ・エムデ)はアイスクリームパーラーCampiで開催された英国人サックス奏者ロニー・スコット(ダニエル・ベッツ)のライブ会場にいた。終演後、ヴェラは馴染みの店員からアイスを奪いロニーに手渡す。積極的なヴェラにロニーは、自身の西独ツアーを組んでくれないか、と言う。ヴェラは父の歯科医院で真夜中に英国人のふりをして西独のライブ会場に手あたり次第電話をかけた。
1974年、西ベルリンのジャズフェスティバルで29歳のキース・ジャレットのソロピアノを聴き、衝撃を受けたヴェラはキースをケルンに呼ぶために奔走する。
1975年1月24日、ローザンヌで演奏を終えて楽屋で腰痛のコルセットを外し、ECMレコードのマンフレート・アイヒャー(アレクサンダー・シェアー)の運転する小型車で8時間かけてケルンに着いたが、オペラハウスのステージには指定していたべーゼンドルファー・グランド・インペリアルはなく、ペダルが壊れ調律されていないリハーサル用のピアノが置かれていた。演奏を拒否するキース。キャパ1,300人のオペラハウスに1万マルク(当時のレートで約100万円)の会場費は既に払ってしまった。23時の開演まであと7時間、19時から21時はベルクのオペラ『ルル』の上演でステージが使えない。
「これはキース・ジャレットの映画でも『ケルン・コンサート』の映画でもない。『足場』についての映画だ」。ガールエンパワーメントムービーの惹句の通り、世紀の名盤誕生の過程における高校生ヴェラの活躍と家族との確執と和解、仲間たちとの連帯をスピーディでタイトな編集で小気味よく魅せる青春映画。いつもベレー帽を被っているアナーキストの同級生イザ(シリン・リリー・アイサ)がとてもいいです。
とはいえ、権利の関係なのかキースのソロ演奏シーンがベルリンのコンサートホールだけなのはちょっと物足りない。『ケルン・コンサート』のあの冒頭の4単音と6′30″あたりの踵落としドーンはあってもよかったのではないでしょうか。オペラハウスの幕が上がるとビージーズの "To Love Somebody" のニナ・シモンcover(名演!)がかかります。キースの実際の演奏はYouTubeでもサブスクでも聴けるので、そこは映画館を後にした観客に委ねられているということなのかもしれません。
米国人音楽ライターのマイケル・ワッツ(マイケル・チェルナス)がいい味を出している。スクリーンからしばしば客席に語り掛けるのは『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』でも使用されていた演出(いわゆる第四の壁)。ジャズの歴史を超ざっくり解説してくれるので、ジャズ初心者でも大丈夫。レコーディングが演奏ミスで中断すると、クランプスはスタッフを罵倒し、ディランは笑い、スタン・ゲッツは平謝り、フリートウッド・マックは口論する、というくだりも面白かったです。


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