2023年10月24日火曜日

キリエのうた

秋晴れ。ユナイテッド・シネマ豊洲岩井俊二監督作品『キリエのうた』を鑑賞しました。

大雪原をつまづきながら歩く小さなふたつの人影、手前に錆びた鳥かごが映り、映画が始まる。舞台は変わり2011年の大阪。ザリガニ釣りをする3人の男子小学生が見慣れぬ女子児童(矢山花)に出会う。一言も声を発しない少女はザリガニ釣りに加わりイワンと名付けられる。

2023年、夜の新宿駅南口。ガットギターで弾き語りする路花(アイナ・ジ・エンド)。スケッチブックにはKyrieと名前が書かれている。水色のウィッグのイッコ(広瀬すず)は路花に話しかけ、帰る家のない彼女に中華料理をごちそうし、家に泊まっていくように勧める。

2018年の帯広。高校生の真緒里(広瀬すず)の母楠美(奥菜恵)は常連客で牧場主の横井(石井竜也)から求婚される。横井は真緒里の大学の学費を出すと言い、牧場従業員の夏彦(松村北斗)に真緒里の家庭教師をさせる。

2011年夏、石巻。旧友が集まった夏彦の家を1年後輩の希(アイナ・ジ・エンド)が訪ねる。友だちが寝静まった深夜、夏彦は希を送り、希は神社にはじめて来たと言う。絵馬の下でふたりはキスをする。

監督と同世代の我々にとって岩井俊二作品は踏み絵みたいなところがあるんじゃないかと思います。全肯定するのも拒否するのも、どちらも微妙な気持ちになる。エンターテインメントとしては圧倒的なユーモアの欠如と設定の甘さを映像美と音楽でねじ伏せる。粗品ですら笑いの要素は皆無、広瀬すず演じる真緒里/イッコが唯一のコメディ・リリーフか。

BiSHのおくりびと担当アイナ・ジ・エンドありきの作品といっても過言ではない。口角は上がっているのだが、声だけがいまにも泣き出しそうに響く。映画初出演で一人二役を体当たりで演じ、BiSHには縁がなかった多くの聴衆もその強い歌声で魅了することになるでしょう。オフコースの「さよなら」や久保田早紀の「異邦人」など、往年のヒット曲にアイナさんが歌声で刻印していく様は痛快です。

また、東京という土地の存在を考えさせられました。渋谷でも原宿でも青山でも池袋でも秋葉原でも銀座でもなく、岩井監督にとっての東京は新宿なのだな、と。終盤の新宿中央公園のフェスのシーンで、通報を受けた警察が介入するなかでKyrie/路花はバンドを従えて「憐れみの讃歌」を歌います。PAの電源が切られて演奏がストップしてもオフマイクのアカペラで歌い切るというエンディングにしたらよかったのに、と思いました。

 

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