2023年9月3日日曜日

Dread Beat an' Blood/ダブ・ポエット リントン・クウェシ・ジョンスン

熱帯夜。角川シネマ有楽町 "Peter Barakan's Music Film Festival 2023" にてフランコ・ロッソ監督作品『Dread Bead and Blood/ダブ・ポエット  リントン・クウェシ・ジョンスン』を観ました。

「ブリクストンはキングストンに似ている」。ロンドン地下鉄ヴィクトリア線ブリクストン駅から出るリントン・クウェシ・ジョンソン(LKJ)。1952年ジャマイカ生まれ、11歳で英国に移民。ジャマイカン・クレオール英語で詩を書き、23歳で第一詩集 "Dread Beat an' Blood" を出版した。

ベーシストでプロデューサーのデニス・ボーヴェルと組んで1978年に第一詩集と同名の1st Albumを発表。ダブ・ポエトリーというジャンルを確立し、70歳になった現在も現役だが、その若き日を追った1979年制作のドキュメンタリーフィルムです。

LKJの詩(歌詞)は当時の英国保守党サッチャー政権の排外主義に対するプロテストを表明していると捉えられていたが、テレビ番組のインタビューで「僕の詩はメッセージではなく、ひとつの見方でありたい」と答える。ダブサウンドに乗せた "Madness Madness War" というリフレインもブラックミュージック的なグルーヴを感じるものではなく、むしろぎこちなさが切実感を表現している。

ジャマイカでは成績優秀な特待生であり、英国に移住して差別的な扱いを受け、高卒でいくつか職を変えたが、最終的に大学で学位を取得している。詩集を片手にしたライブのスタイルもレゲエDJやヒップホップのMCとは一線を画すもの。それはまさにポエトリー・リーディングであり、夜のカフェで音楽に乗せずに静かな観客に向けてひとり淡々と詩を朗読する姿にこそ本質が見えるように感じました。

人種性別の混在した若い大学生との対話やサス(suspects)法に反対する政治集会でのメガホンを使ったアジテーションは「詩は何も変えることができない。社会の変化を映すものだ。人々の行動が社会を変えるんだ」という自身の活動家としての側面を映しています。

レゲエミュージックのファンはもとより、朗読表現を志す詩人こそ観るべき記録映画だと思いました。

 

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