関東大震災の翌1924年、東京玉ノ井(現在の墨田区東向島)。幣原機関で育成され明治の終わりに57名を殺害し、最も排除されるべき日本人と呼ばれたスパイ小曽根百合(綾瀬はるか)はカフェ・ランブルの女主人をしていた。秩父の別荘地で細見一家惨殺事件が起こった。ただひとり生き延びた長男慎太(羽村仁成)を百合は列車内で保護する。父細見欣也(豊川悦司)が隠した帝国陸軍の資金をめぐり逃亡するふたり。
ハードボイルドとは何か? ハメットやチャンドラーの古典から、ロバート・B・パーカー、ドン・ウィンズロウ。女性主人公ならサラ・パレツキー、スー・グラフトン。日本の作家では、北方謙三、松岡圭祐の『探偵の探偵』。20代でハマって数多の小説や映画に触れました。ざっくりいうと、確固とした行動規範を持つ主人公が、正義感、職業倫理、友情、恩義と様々な自己基準の大義のために法を犯しても社会や組織の大義と闘う物語、と定義づけられると思います。
その意味で本作の主人公小曽根百合もハードボイルドの定型を押さえ、争いは何も生まない、と分かっていながら、左胸をナイフで刺されても、少年を守るために陸軍兵士たちを何百名も撃ちます。ひとりの命のために別の多数の命を犠牲にしてもいいのか、というほうが気になってしまう自分がいて、ハードボイルドに夢中だったあの頃とはもう変わってしまったのだな、と思いました。
アクション、カメラワーク、ビジュアルはどのシーンも美しいです。特に視界1m足らずの濃霧の中での撃ち合いは『バービー』の主人公と考案者ルースの対話とシンクロしてぐっと来ました。カフェの女給で最後は散弾銃で参戦する17歳の琴子(古川琴音)の舌足らずで甘い声色もいいアクセントになっています。
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