1956年、ロンドン。家政婦のエイダ・ハリス(レスリー・マンヴィル)の元に第二次世界大戦を英国空軍で戦った夫の遺品の指輪が届く。失意の中でも仕事の手を抜かないハリス夫人は雇い主のセレブ(アナ・チャンセラー)の部屋でクリスチャン・ディオールのドレスに一目惚れし、パリでオートクチュールを作ることを決心する。
ポール・ギャリコの原作小説をロマンチックコメディ映画のフォーマットに乗せて極上のエンタテインメントに仕立てた本作。ドレス代と渡航費の金策、パリのメゾンでの冷遇、帰国後に親切心が招いた悲劇。繰り返し訪れる窮地に、ハリス夫人は持ち前のポジティブ思考と利他精神で周囲の人々の好意を呼び、胸のすくような解決を導きます。
時代背景も絶妙で、清掃員のストライキでゴミが山積するパリの街で廃れていく貴族文化の矜持を保とうとするサシャーニュ侯爵(ランベール・ウィルソン)、オートクチュールの伝統を頑なに守りたいマダム・コルベール(イザベル・ユペール)、ブランド存続のために香水やストッキングなど庶民が買えるアイテムの導入を主張する会計係のフォーベル青年(リュカ・ブラボー)とサルトルの『存在と無』を通じて意気投合する専属モデルのナターシャ(アルバ・バチスタ)の瑞々しい恋心、ハリス夫人の心の支えであるアフリカ系の親友バイ(エレン・トーマス)ら、魅力的な脇役たちも時代の転換点をいきいきと動く。
「ドレスは驚きと歓びのためにデザインされている」。ディオールが全面協力した華やかな衣装、弦楽中心の典雅で流麗なラエル・ジョーンズのスコアは『ローマの休日』や『麗しのサブリナ』などロマンチックコメディの伝統を継承していますが、主人公が若者ではなく、初老の未亡人というところもいまの時代にマッチしていると思います。鑑賞後にあたたかく幸せな気持ちになれる、2022年クリスマスのデートムービー決定版と言っていいのではないでしょうか。
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