舞台は現代の宮崎県。小高い丘の上の戸建住宅に叔母の環(深津絵里)と暮らす主人公の岩戸鈴芽(原菜乃華)は自転車で坂を下って登校中に左目に泣きぼくろのあるロン毛のイケメン宗像草太(松村北斗)とすれ違う。「ねえ君、このあたりに廃墟はない? 扉を探しているんだ」。尋ねられた鈴芽は山の中腹にある廃業した温泉リゾートを教える。
温泉リゾートの中心に位置する浅い噴水池に古い木の扉から巨大な赤い力が噴き出して荒れ狂っていた。ミミズと呼ばれるその現象は土地に災厄をもたらす日本列島の下を蠢く力。草太は全国各地を旅して後ろ戸(扉)を閉じ、災害を未然に防ぐ閉じ師の家系を継ぐ者。鈴芽の部屋で怪我の手当てを受けた際、要石でもある白猫のダイジン(山根あん)の呪いで三本足の椅子に姿を変えられてしまう。
『君の名は。』で巨大隕石、『天気の子』で気候変動を主題にした新海誠監督が今作では大震災を正面から描いています。宮崎→愛媛→神戸→名古屋→東京→福島→宮城と移動するロードムービーでもあり、旅をする鈴芽と自走する椅子である草太は行く先々で人々の親切に触れる。
ガール・ミーツ・ボーイを描いていても、新海監督の本質はSF作家なのだと思います。物語は壮大で、アニメーション表現はダイナミック且つ精妙。見ごたえがあるのですが、主要人物の心情の機微まで期待するのはお門違いなのかも。鈴芽が命を賭してまで椅子になった草太を守りたいという強い思いに至る道筋が僕には見えませんでした。
「大事な仕事は人から見えないほうがいいんだ」という草太の台詞は新海監督の矜持なのかな。岩戸鈴芽の名は、洞窟に引き籠った天照大御神に歌舞音曲で天の岩戸を開けさせた天鈿女命から。後ろ戸は仏堂の背後の入口のこと。閉じ師が唱える神道の祝詞。保守回帰は更に極まる。
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