休耕田を俯瞰するドローン映像から映画は始まる。第一部は「母の真実」。ルミ子(戸田恵梨香)は24歳。油絵教室で出会った田所(三浦誠己)は作風が暗く苦手だったが、母(大地真央)が称賛したことから交際を始め、結婚する。森の中の新居に引っ越し、娘(永野芽郁)を出産する。そして台風の夜、悲劇が起こる。
第二部は「娘の真実」。娘の幼少期から台風の夜の悲劇までを娘目線で描く。第三部の「母と娘の真実」では、夫の実家に身を寄せた三人家族と義母(高畑淳子)、義妹(山下リオ)の関係性を戸田恵梨香と永野芽郁の視点で交互に描写する。
湊かなえの原作小説が無駄のない脚本と抑制の利いた演出で重厚な映画に仕上がっています。コトリンゴさんのミニマルな劇判も効果的。俳優陣の演技が素晴らしく、特に主演の戸田恵梨香にとって今後は本作が代表作と呼ばれるようになるのではないでしょうか。
「母の真実」は、教会の懺悔室で神父(吹越満)にルミ子が告白した過去の悔恨を物語化したという枠組みです。ルミ子と母の会話は「~だわ」「~かしら」「~してよ」というチェーホフ(の翻訳)然とした古風な戯曲調で、ルミ子の美化された記憶を象徴するかのよう。娘を愛能うかぎり大切に育てたというが、母は自身の価値観を妄信、隷属させてしまっていることに気づいていない。
「娘の真実」は一転して現代的で自然な口語体になり、同じシチュエーションを同じ台詞で演じていても戸田恵梨香の表情、声色、所作、すべてが異なり狂気じみて映る。調度も服装も料理も「母の真実」とは細部がことごとく異なる。やがて娘は「余裕や遊びを人から感じ取っても自分には必要ないと思う人間」に育つ。
「私たちの生命を未来に繋げてくれてありがとう」という呪いが世代を超えて継承されることに底知れない恐怖を感じました。高畑淳子がべらぼうに性格の悪い姑を見事に演じ切っていますが、そのパワーをもってしても母娘の呪いを断ち切ることができない。
ラストシーン近くでルミ子が一度だけ「清佳」と娘の名前を呼びます。名前で呼ばないということは独立した人格として存在させていないのと同義だな、と思いました。
どの登場人物にも僕は感情移入することができませんでしたが、この事実こそが本作の訴えるものであり、本作の価値であると強く思います。
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