2022年9月26日月曜日

ロックンロール・ハイスクール

月曜日。シネマート新宿ロジャー・コーマン製作総指揮、アラン・アーカッシュ監督作品『ロックンロール・ハイスクール』を観ました。

1979年、米国西海岸LAのヴィンス・ロンバルディ高校に赴任したトーガー校長(メアリー・ウォロノフ)はロックンロールは有害だと考えており、女子生徒リフ・ランデル(P・J・ソールズ)が校内放送でザ・ラモーンズのレコードを爆音でかけ全校生徒が馬鹿騒ぎしているのを見て、オーディオケーブルを切断し、罪をかぶった親友ケイト・ランボー(デイ・ヤング)とともに反省室へ呼び出す。

リフはジョーイ・ラモーンが大好き。自分で作詞作曲した "Rock 'n' Roll High School" をツアーでやって来るラモーンズにどうしても渡したい。これがメインプロット。理系メガネ女子(メガネをはずすと実は美少女)のケイトはアメフト部主将トム・ロバーツ(ヴィンセント・ヴァン・パタン)に恋しているが、いつも天気の話しかしない童貞のトムは親友リフのことが好きで、ケイトはなんとか自分に振り向かせたい、というサブストーリー。ですが、全編通じてスラップスティックで、B級映画王ロジャー・コーマンとその弟子筋の悪ノリにラモーンズのやかましくてアホっぽい楽曲とパフォーマンスが重なり、極限まで誇張されたハイスクールシチュエーションコメディに仕上がっています。

ラモーンズのロックンロールが実験用マウスに与える悪影響を実証する際にトーガー校長が操作するフェーダーの目盛りが、一番下にパット・ブーン、上位はテッド・ニュージェントレッド・ツェッペリンローリング・ストーンズザ・フー、と並び、最上位にラモーンズ。炎上する高校を背景にしたケイトとトムのドラマチックなキスシーンは『風と共に去りぬ』のパロディでしょう。

1979年のラモーンズは、ジョーイ・ラモーン(vo)、ジョニー・ラモーン(G)、ディー・ディー・ラモーン(b)、マーキー・ラモーン(Dr)のベストメンバー。本人役で登場し、ライブシーンでは、電撃ビバップティーンエイジ・ロボトミーカリフォルニア・サンピンヘッド(GABBA GABBA HEY!)シーズ・ジ・ワンを演奏。マーキー以外の3人は既にお亡くなりになられています。

ライブシーンの他に、ジョニー・ラモーンのアコースティック・ギターと(モズライトではなく)リッケンバッカー12弦をフィーチャーしたミディアムバラード "I Want You Around" や The Beach Boys の "Do You Wanna Dance" のカバーなど、思いがけずラモーンズの音楽性の幅広さに気づかされました。

ラモーンズ以外に、アリス・クーパーMC5ヴェルヴェット・アンダーグラウンドトッド・ラングレンDEVOニック・ロウなんかもかかります。劇伴にBent Fabric、不意打ちのようにブライアン・イーノが何度か聴こえて都度びっくり。

ラモーンズといえば現在ではNYパンクロックの代名詞的存在ですが、劇中ではパンクとは呼ばれずあくまでもロックンロールバンドとして扱われており、当時の感覚としてはそうだったのかもしれません。登場人物の台詞に "Punk" が使われるのおそらく1回だけ。校舎を占拠したリフに向かってトーガー校長がメガホンで「ならず者!」と罵倒する場面のみだと思います。

ラモーンズのTシャツ割引もあるので、持っている方は是非新宿へ!

 

2022年9月18日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート

台風接近中。ノラバー日曜生うたコンサートmayulucaさんの回に伺いました。

夏の終わりに、ということで「熱風」から始まったこの日のライブ。カウンターの鳥かごのセキセイインコ梨ちゃん2号のさえずりとお店の前の道路を通る車のタイヤが雨をはね上げる音が混ざる。タイトルに反して穏やかで涼しげな曲調なのは、歌うmayulucaさんがすこし離れたところから熱風に吹かれている自分を眺めているから。あるいはすこし未来から過去の自身の感情を反芻しているから。

コロナ前のノラバー生うたコンサートはマイクを使わない完全な生声、生音でした。再開後は配信を併用しているため音量は控えめですがPAを通します。「月の下 僕はベランダに」ではミュートを効かせたギターリフをショートディレイでクリスプに響かせる。

続いてmayulucaさんは「きこえる」の前に同曲の歌詞からの引用を含む僕の詩「森を出る」を朗読してくださいました。ありがとうございます。澄んだ歌声とは違うすこしだけハスキーな中音域のmayulucaさんの地声で聴く朗読が心地良くて僕は大好きです。

アンリ・ルソーに着想を得た「緑色の夢」、奈良美智さんの『48 GIRLS』からの朗読と進みます。

ノラバー店主ノラオンナさんの供するノラバー御膳をみんなでしみじみ味わい、配信のデザートミュージックへ。今夜のドレスコードは赤。ノラバーのカウンターも赤。mayulucaさんが持参した赤い風鈴やカウベルで我々観客も演奏に参加して、最後はノラオンナさんの「梨愛」をふたりのハーモニーで。台風の夜は楽しく更けていきました。

 

2022年9月17日土曜日

ワイルド・スタイル

土曜日。新宿シネマカリテにてチャーリー・エーハン監督作品『ワイルド・スタイル』を観ました。

主人公レイモンド(リー・キニョネス)は地下鉄の操車場に毎夜忍び込んで列車の車体にスプレーでグラフィティを描く覆面グラフィティライター "ZORO" 。コンテンポラリーアートのバイヤーやコレクターにも注目される存在だが、職業軍人の兄には穀潰しと蔑まれ、恋人ローズ(レディ・ピンク)ともぎくしゃくしている。

NY市サウスブロンクスの荒廃した公営住宅を背景にした、グラフィティ、DJ、ラップ、ブレイキン。HIP HOPの4つのエレメントは1982年の制作当時に既に完成していたこと、ヒスパニックも重要な役割を果たしていたことがわかります。

グラフィティライターたちは役名で芝居し、コールドクラッシュファンタスティック5ビジービーダブルトラブルクールモーディらラッパー、DJグラントマスターフラッシュは実名で登場。ドキュメンタリーとドラマが渾然一体となり、HIP HOPカルチャー黎明期の熱気を伝える。

ラストシーンの野外音楽堂のライブのテンションでステージ上も客席も映画館も最高潮に盛り上がり、ドラマパートの伏線の放置は、グルーヴがすべて帳消しにしてくれます。

ラップのリリックが政治性を帯びたり内省的なものが出てきたりするのはこのあとのこと。俺のラップが一番ヤバいとか、俺が一番レディたちにモテるとか、案外普通のことしか言っていない。リリックの字幕も丁寧です。

 

2022年9月15日木曜日

MONK モンク

木曜日。角川シネマ有楽町 "Peter Barakan's Music Film Festival 2022" にてマイケル・ブラックウッドクリスチャン・ブラックウッド監督作品『MONK モンク』を鑑賞しました。

1968年、ニューヨークのジャズクラブVillage Vanguardで額に汗を滲ませてピアノと向き合うセロニアス・モンク。自作曲であり当時既にスタンダードナンバー化していた "Round Midnight" から映画は始まる。そしてコロムビアレコードのスタジオのモンク・カルテット。"Boo Boo's Birthday" を演奏しているので、アルバム "Underground" のセッションと思われる。

今年1月に観た同監督の『モンク・イン・ヨーロッパ』と二部作のこの作品も同時公開していたのですが、日程的に逃していたのを今回あらためて2本続けて観ることができました。

スタイリッシュなモノクロ映像にナレーションやテロップはなく、ミュージシャンを追い続ける。演奏する佇まいや指先、表情が言葉以上に雄弁に伝えるエモーションがある。ステージで楽屋でスタジオで路上で空港で51歳のモンクはやたらと回転しています。背骨を軸に両手を広げてぐるぐると、時にふらつきながら。

1950年代に名声を確立し、撮影当時にはどこに行ってもレジェンドとしてリスペクトされていますが、長く患っていた双極性障害の悪化によって、"Underground" と同じ1968年にリリースしたビッグバンド作品 "Monk's Blues" を最後に1982年に64歳で亡くなるまで実質的な音楽活動をしていません。その意味でこの2本のフィルムは音楽的最晩年を記録したものと言えます。

高度な知性と理論に裏打ちされたモンクの音楽ですが、それに反して極めて粗野な外観をしています。当時の聴衆がその相反性をどう感じていたのか、思いを馳せずにはいられませんでした。


2022年9月13日火曜日

ルードボーイ:トロージャン・レコーズの物語


1956年、元警察官のデューク・リードはジャマイカの首都リヴィングストンで酒屋を始めたが、店は閑古鳥が鳴いていた。レコードプレーヤーと巨大なスピーカーを設置し大音量で流したところ、若者たちが集まり大盛況。リード・サウンド・システムと名付けられた。

リード・サウンド・システムでは当初アメリカのR&Bのレコードをかけていた。1959年、ジャマイカで新しく生まれたリズム、スカのレコードを制作するようになる。

1962年、ジャマイカ共和国が大英帝国から独立。前後して多くのジャマイカ人たちが職を求めてイギリスに移住するが、NCP(No Colored People)のスタンプが押された求人票ばかりだった。

1963年、インド系ジャマイカ人リー・ゴプサルトロージャン・レコーズをロンドンで創業。ジャマイカ移民コミュニティで共有されていたスカやその発展形であるレゲエのレコードをリリースした。トロ―ジャンとはトロイ人、転じて勇敢な者の意。

「多文化共生社会は1960~70年代のダンスフロアで生まれた」。白人中産階級から謂れなき差別を受けたジャマイカ人でしたが、彼らの音楽を支持して同じクラブで踊ったのは白人労働者階級最下層のスキンヘッズの若者たちでした。1980年代以降はネオナチ、排外主義のイメージが強いですが、1960年代のスキンヘッズは移民にシンパシーを感じていたんですね。

移民二世のドン・レッツ(ex.Big Audio Dynamite)はレゲエを「故郷なき僕らの人生のサウンドトラック」と言う。若きリー・スクラッチ・ペリーの革新的なダブサウンドもトロージャン発。1970年代に入りヒットチャートを意識してストリングスアレンジを施したメローなナンバーをリリースし出した頃から人気に翳りが見え、1975年に経営破綻する。ルーツ、ダブ、ラヴァーズ、ダンスホールという現代レゲエの4カテゴリーがトロージャンには既に備わっていました。

貧しい移民たちの若き日の姿は8mmにもVHSにも残っていないのでしょう。現代の俳優が再現しています(歌声は本人)。

タイトルのルードボーイとはHIP HOPでいうところのGANGSTAのこと。「ルードボーイはライオンより強い」と歌うジャマイカのデリック・モーガン の"Rudie Don't Fear" 、ダンディ・リビングストンがロンドンから "A Message To You Rudy" で「将来のことも考えようぜ」とアンサーし、白人パンクバンドのザ・クラッシュが "Rudie Can't Fail"で「しくじるなよ、ルーディ」と被せる。

演者側の人種混合は次世代に実現する。その代表格である2TONEからは、The Specials / Fun Boy ThreeNeville StapleThe SelectorPauline Black がインタビューに答えています。

 

2022年9月4日日曜日

さかなのこ

残暑。TOHOシネマズ日比谷にて沖田修一監督作品『さかなのこ』を観ました。

夜明け前、天井の高い洋館のヘッドボード付き寝台で目覚めたミー坊(のん)は青と黄色のウェットスーツに着替え玄関を出る。漁船に乗り込みバラエティ番組の収録に臨む。

時は遡り小学生のミー坊(西村瑞季)は魚に夢中。母親(井川遥)と水族館に通い、蛍の光が鳴り終わるまで水槽の前を離れない。海水浴に来て大蛸を捕まえるが、家で飼いたいというミー坊をスルーして、父親(三宅弘城)は路肩に叩きつけて締め、家族みんなでゲソを浜焼きにして食べる。

さかなクンの自伝的エッセー『さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~』を原作にした本作で、総長(磯村隼斗)、カミソリモミー(岡山天音)、狂犬(柳楽優弥)のヤンキー高校生役に実力派アラサー俳優を配し、性別も年齢も超越したミー坊(=さかなクン)の純粋さを記号的に強調させています。そういう意味では歌舞伎っぽい。

同じく沖田修一監督の昨年夏公開作品『子供はわかってあげない』は田島列島のカオスでリリカルな原作漫画を上白石萌歌細田佳央太で実写化した青春映画の傑作でしたが、本作はほぼ同じ上映時間でありながらやや冗長に感じます。さかなクン本人が幼少期のミー坊に影響を与える役で出演していて、さかなクン以外の何者でもないビジュアルのため、主人公の設定の理解を難しくしてしまっているのも要因のひとつかと思います。

阿佐ヶ谷姉妹のマネージャーになったり永野芽郁の共同経営者になったりとひっぱりだこの前原滉が総長の右腕的ヤンキーを演じています。大人になった同級生モモコ役の夏帆(左利き)が変わらずかわいいです。