2022年1月18日火曜日

モンク・イン・ヨーロッパ


文字だけのシンプルなタイトルロールのあと、映画はリハーサルスタジオから始まります。空港から到着したばかりのセロニアス・モンク(1917-1988)は時差ボケで頭が回らない様子。ツアーマネージャーに「すこし眠ったほうがいい」と言われるが、ピアノに向かいリハーサルを進める。

ベン・ライリー(dr)とラリー・ゲイルズ(b)のリズムセクションに、ジョニー・グリフィン(ts)、チャーリー・ラウズ(ts)、フィル・ウッズ(as)、レイ・コープランド(tp)、ジミー・クリーヴランド(tb)の五管を擁したオクテット(八重奏団)による1968年の欧州ツアーを追ったドキュメンタリーフィルム。クラーク・テリー(tp)も1公演だけ吹きます。

公演地はロンドン、ストックホルム、コペンハーゲン、ベルリン、マインツ、ロッテルダムとクレジットされているが、映画中にはテロップ含め説明はなく、一切のナレーションもインタビュー映像のインサートもなく、場面はほぼ空港とリハスタとコンサートホール。58分間ひたすらスタイリッシュなモノクロ映像が流れ、帰国便の待合室でりんごを丸齧りするモンクの姿で唐突に終わる。

モダンジャズ界の奇人と呼ばれるセロニアス・モンク。『真夏の夜のジャズ』や『ジャズ・ロフト』でもその姿が垣間見られるが、主役に据えた一本でより一層伝わります。コンサート本番でもこれ見よがしに弾き倒すことはなく、メンバーのソロになるとピアノの前を離れステージ上をうろうろと徘徊する。

音数が少なく、イントネーションもアクセントも独特の奏法で、グルーヴのありかも掴みづらいところがあるモンクのピアノですが、演奏中の右足はかかとと爪先で常にフォービートを刻んでおり、確かな内的律動が存在することを映像が雄弁に語っています。

モンクが現れないリハーサルではチャーリー・ラウズと唯一の白人メンバーであるフィル・ウッズがアイデアを出し7人で研磨する。モンク・ミュージックかくあれかし、という強固な暗黙の了解がそこにはある。

緊迫感溢れる演奏シーンの連続のなか、ホワイエで地元メディアの割と適当な取材を受けるシーンやホテルのベッドにボーイを呼んでチキンレバーとマッシュポテトのルームサービスをオーダーする姿、同行した妻ネリーの天真爛漫なお洒落にほっとさせられました。

モノラル録音ですが、ヒューマントラストシネマ自慢のodessa vol+を通すと音圧感がすごいです。コンサート本編はもちろんですが、リハーサルの音質も負けていない。フィルムのサウンドトラックだけではなく、カメラに映らないところでオープンリールレコーダーが回っていたのではないかと思います。

 

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