2021年10月9日土曜日

TOVE/トーベ

夏日。ヒューマントラストシネマ有楽町にて、ザイダ・バリルート監督作品『TOVE/トーベ』を観ました。

映画は1944年第二次世界大戦下のフィンランドの首都ヘルシンキの防空壕から始まる。30歳のトーベ・ヤンソンアルマ・ポウスティ)は、油彩抽象画をそっちのけで画用紙に小さな妖精たちの走り書きばかりしている。国民的彫刻家の父ヴィクトルロベルト・エンケル)は保守的な芸術観の持ち主で娘を認めようとしない。

ホームパーティで出会った左派議員で新聞社勤務の妻帯者アトス・ヴィルタネンシャンティ・ルネイ)と不倫関係にありながら、自身の個展のレセプションで声をかけてきた市長の娘で舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラークリスタ・コソネン)とも肉体関係を持つ。トーベにとってヴィヴィカははじめての同性の恋人だった。

ムーミンの作者トーベ・ヤンソンの約10年間を描いた伝記映画ですが、物語やキャラクターの誕生秘話というよりも、バイセクシュアルであるトーベの複雑な恋愛感情に焦点を当てた演出です。現在はリベラルで高福祉、多様性を重んじる印象のあるフィンランドでも、1971年まで同性間の性行為が違法とされていました。
 
たいていの集まりには遅刻して到着するトーベ、個展に出品したくわえ煙草の自画像を父親に裏返しにされてしまうトーベ、法を犯しても愛するヴィヴィカに裏切られても自分の意思を貫くトーベを映画監督でもあるアルマ・ポウスティがチャーミングに演じています。

北欧映画らしい色調の美術と衣装が魅力的なのと、殊に音楽が素晴らしいです。蓄音機から流れるデューク・エリントンカウント・ベイシーのビッグバンドジャズ、当時のシャンソンマッティ・バイの控え目なピアノ中心の劇伴で、各場面で実際に奏でられている音楽と主人公たちの脳内で鳴っている音楽が音響処理的に区分されている。市長の誕生日の夜に雪の積もったバルコニーでトーベとヴィヴィカが踊っているとガラス扉が開いてフロアで演奏しているジャズが流れ込んでくるシーンやエッフェル塔を想うトーベが実際にパリに到着した途端にリバーブがドライに転換するところは痺れました。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿