2021年10月17日日曜日

サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~


主人公ルーベン・ストーン(リズ・アーメッド)は2ピースデスメタルユニットBLACK GAMMONのドラマー。ギター/ボーカルのルー(オリビア・クック)とは恋人同士で、トレーラーハウスに乗って旅をしながらライブハウスで演奏する日々を送っている。

ある日、ライブの物販準備中に聴覚の異変に気づく。身の周りのあらゆる音がくぐもって聞える。医者にかかると、既に聴覚の70~80%は失われており、回復させるには4~8万ドルと高価なインプラント手術が必要だと言われる。ルーは、事実が受け入れられず自暴自棄になるルーベンを、ベトナムで戦闘中の爆発により失聴したジョー(ポール・レイシー)が山奥に建てた聾者のグループホームに連れて行く。共同生活する大人の聾者の多くは依存症もしくは依存症経験者だった。

従軍看護師の母親と米国中の基地を転々としながら育ったルーベンは根無し草。手首に多数のリスカ痕のあるルーとトレーラーハウスだけが安息地だったのでしょう。そこから切り離され、外界と連絡を禁じられたホームの閉塞感、毎朝5時にテーブルひとつしかない部屋でノートに文字を綴らなければならない苦行。自分自身と正面から向き合うのは容易いことではありません。

他の入所者や聾学校の生徒たちとの交流から徐々に心を開き、手話を身につけていく過程は希望が見えますが、ルーベンの求める未来はそこにはなかった。

2021年度アカデミー賞音響賞を受賞した本作品は音響効果が見事の一言。難聴者に聞こえている世界を体感することができます。僕自身、30代前半に左耳の突発性難聴を患ったことがあり、片耳で一時的とはいえ同様な聴覚を持った経験からリアルに感じられました。インプラント後のパーティの喧噪や大聖堂の鐘の音の金属的な聴覚は耐えがたく、話されている言葉の意味はわかっても人声や生活音の心地良さが失われてしまうことについての是非を考えさせられる。失聴はハンディキャップではなく静寂の中にこそ平穏があるという、ジョーの言葉が響きます。

バリアフリー上映ということで、聴覚障害を持つ方にもわかるように、台詞の上に役名が表示され(不調和な音が響き出す)(メタル音楽の演奏)(ひずんだ)(穏やかな)といった括弧付きの字幕が表示され、聞こえない人が映画をどう観ているのか、一端を垣間見ることができます。一点(悲しげなBGM)は僕には悲しげには聞こえませんでした。

タイトルは『サウンド・オブ・メタル』ですが、メタルの概念が爆発的に拡大細分化している現在、一概に言えない面があるにせよ、ルーベンがIRON MAIDENMETALLICAではなく、YOUTH OF TODAYパーカーEinstürzende NeubautenG.I.S.M.のTシャツを着ているのに象徴されるように、BLACK GAMMONの音楽はハードコア、ポストパンク寄り。トレーラーハウス内にはGAUZE自殺のポスターが貼ってあり、米ハードコアシーンで1980年代の日本のパンクロックがリスペクトされていることがわかります。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿