2020年1月3日金曜日

家族を想うとき

三賀日のひとときを映画館の暗闇で過ごすようになって10数年。2020年の1本目はユナイテッドシネマ豊洲ケン・ローチ監督作品『家族を想うとき』を鑑賞しました。

2018年英国北部の旧炭鉱街ニューキャッスル。職を転々としているリッキー・ターナー(クリス・ヒッチェン)は、職業安定所の紹介で宅配業者と業務委託契約を結び、訪問介護士の妻アビー(デビー・ハニーウッド)の乗用車を売ってフォルクスワーゲンの大型バンを手に入れる。

個人事業主なので日報もノルマもないと言われたが、実態は過酷な長時間労働であり、社員マネジャーのマロニー(ロス・ブリュースター)の裁量によって業務量と収入は大きく左右されてしまう。

「懸命に探しても、もがけばもがくほど大きな穴に落ちていく」。eコマースの隆盛と高齢化を下支えする物流と介護。現代の先進国が最も直面している課題が労働者階級を蝕んでいます。夫婦の気持ちのすれ違い、反抗期の息子セブ(リス・ストーン)との断絶、理不尽なクレーム、居眠り運転、配達中の暴漢。つぎつぎに降りかかる災難。社会構造の問題でもあるのですが、「主人公は運に見放されているなあ」と思ってしまうのは、僕がとても恵まれた境遇にいるからなのでしょう。

原題の "Sorry, we missed you" は、不在票に印刷されているメッセージ。幼い娘ライザ(ケイティ・プロクター)がそこに「パパの下着を弁償して」と書き加える。純粋で素直なライザの存在が、救いのない物語で唯一の光明です。

役者はいずれもオーディションで選ばれた労働者階級出身者だそうです。みな気持ちの入った熱演で、83歳の巨匠ローチ監督の手腕も光る。ニューカッスルサポーターの配達先の住人が、リッキーのマンチェスターユナイテッドのユニフォームに気づき、20年以上前の試合のことを持ち出し本気で罵倒するシーンは笑えます。

 

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