新橋に用事があったので、すこし早めに家を出て、パナソニック汐留ミュージアムで開催中の『マティスとルオー展』を観賞しました。
アンリ・マティスとジョルジュ・ルオー。20世紀前半のフランスで活躍し、今も人気のあるふたりの画家はパリのエコール・デ・ボザール(国立美術学校)でギュスターヴ・モローに師事した同級生。育った境遇も作風も対照的ですが、生涯親交があり、数多くの書簡が残っています。
ふたつの大戦を超え、ふたりとも80代まで長生きしました。50年以上にわたるコレスポンダンス。若いうちは芸術論、離れて暮らすようになるとお互いや家族のことを、老境を迎え体調や健康法について。マティスの整った字体に対して、ルオーの手紙は溢れ出る感情そのままに行間や余白にどんどん書き足していくスタイル。
会場のパナソニック汐留ミュージアムは常設でもルオーのコレクションが充実していますが、今回の展示ではマティスの作品も数多く集めており、観応えがあります。ボードレールの『悪の華』に添えたふたりの挿画の振れ幅の大きさ。他にも時期を違えて同じテーマで描いた作品も多く、感応と差異を味わいました。
若い頃の僕は芸術に対して潔癖なところがあり、作家の人となりや作家同士の交流はノイズであり、知っていることはマイナスではないが、観賞や評価の際には排除すべき要素だと考えていました。おのれと作品との対峙にのみ真の芸術があるのだと(笑)。年を取ってよかったのはそういう無駄な気負いがなくなったことです。
自身は19世紀象徴主義の作家であり、おそらくはマティスやルオーらの新しい芸術に心底共鳴していたわけではない。それでも「私は君たちが渡っていくための橋だ」と言って背中を押したギュスターヴ・モローの懐の深さにも感心しました。
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