2012年12月8日土曜日

砂漠でサーモン・フィッシング

東京はよく晴れた小春日和。丸の内ピカデリー1にラッセ・ハルストレム監督の新作『砂漠でサーモン・フィッシング』を観に行ってきました。前作『親愛なる君へ』から1年ちょっと。コンスタントに作品を発表しています。

英国大好きな中東の大富豪(アムール・ワケド)の代理人(エミリー・ブラント)が、ロンドンの水産学者(ユアン・マクレガー)に依頼したのは、イエメンの砂漠に作った人工河川でフライフィッシングできるように、鮭を自生・遡上させること。

気温、水温、水質、餌などの面から不可能であると判断し、一旦は断るが、国際政治上の要請と内閣広報官(クリスティン・スコット・トーマス)の策略によって巻き込まれ、気づくと荒唐無稽な夢の実現を信じて奔走していた。

理論的には可能(theoretically possible)というのが、この映画にはキーワードとして何度も登場します。理論的には可能だが、現実的には不可能と思われること。それを可能にするための莫大な富と、人を動かす信念。

ハルストレム監督はスウェーデン人ですが、この映画はBBC制作。良くも悪くも英国映画という感じがしました。抑制の利いたユーモアがあり、礼儀正しくて、枠からはみ出ることがない。『リトル・ボイス』(1998)や『キンキー・ブーツ』(2005)の感触に近いものがあります。変な人は出てくるのですが、妙にお行儀が良くて、落着きがある。

それが逆に、この映画の弱さになってしまっていると思います。大富豪はスコットランドの山間部に別荘をかまえ、イエメン人の守衛たちにキルトの制服を着せたりと変なところがあるのですが、何百万ポンド(数十億円)もかけて砂漠にダムを築き、一万匹の鮭を空輸するという割には、目つきに狂気が見えないんですよね。ユアン・マクレガーにしてもそれは同じ。

クリスティン・スコット・トーマス演じる高級官僚の俗物ぶりは笑えます。得票数目当てに全国200万人の釣りファンをゲットとか。あとね、戦争はいかんなあ、と思いました。恋人が戦地で行方不明なんて、想像するだに辛すぎる。その戦地がどこなのかってことも軍事機密で明かされない。そういう意味では、日本で今日公開されたのはタイムリーなのかもしれないです。


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