日の光の差す水底に胸像が沈んでいる。高級レストランル・ドーム・モンパルナスでは32歳のユダヤ系イタリア人アメデオ・モディリアーニ(リッカルド・スカマルチョ)が客の貴婦人たちの似顔絵を描いてチップを得ていた。
上級将校を揶揄したモディリアーニ(通称モディ)は、激高して剣を振りかざした将校に追われ、ル・ドームのステンドグラスを全身で割り、通りに逃げ出す際に、利き手の左の掌を切り、ワインバケットの氷に左手を突っ込んだまま逃走し、メトロに降りる階段で激しく喀血する。ジャーナリストである恋人のベアトリス(アントニア・デスプラ)のアパルトマンに助けを求めるが、締め切り前なのに何も書けない、と追い返される。
1916年、第一次世界大戦下のパリ。アートの中心はモンマルトルからモンパルナスに移った。明日に出征を控えたモーリス・ユトリロ(ブリュノ・グエリ)はアルコール依存症、ロシアから亡命してきたシャイム・スーティン(ライアン・マクパーランド)はカフェでゴキブリを捕獲し牛乳瓶で飼っている。そしてモンパルナスの王子と呼ばれたモディリアーニ。プライドと自己否定、出自に対するコンプレックス、画商や批評家への依存と確執、死の不安とペスト医師の幻影。まだ名声を得る前の3人の画家の3日間を描いた青春群像劇です。
ウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』の数年前。この時代のパリの海のものとも山のものともわからない熱量と石畳の背景は、現代から見ても充分魅力的ですが、スーティンの人としてのヤバさに全部持って行かれてしまった印象が残ります。
ジョニー・デップ監督はそこに1970~90年代のオルタナティブロックを当てているのですが、去年観たW.S.バロウズ原作ルカ・グァダニーノ監督の『クィア QUEER』同様、描かれている時代からみて未来の音楽が流れることで、脳内の時系列が混乱する。
同じくトム・ウエイツの名曲 "Tom Traubert's Blues (Four Sheets To The Wind In Copenhagen)" (1976) を使用し、無名の画家が時代の寵児となり転落するまでを描いたジュリアン・シュナーベル監督の『バスキア』(1996)とどうしても比較してしまいます。


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