2021年9月9日木曜日

テーラー 人生の仕立て屋


ギリシャの首都アテネ、オーダーメイド紳士服店の二代目ニコス(ディミトリス・イメロス)は父(タナシス・パパヨルギウ)の経営する店で14歳から36年間職人として働いてきたが、オフィスウェアのカジュアル化に加え、リーマンショックとその後のギリシャ経済危機によって店は閑古鳥。融資の返済ができずに差押え寸前なところに創業者の父が病に倒れる。

偶然店の前を通りかかった古書販売のリアカーを見て移動販売をしてみるが、さっぱり売れない。ウェディングドレスは作れる? という客の一言に、はじめは断るが、背に腹は代えられず猛勉強して一着納品したところ評判となり、婦人服で次第に客が増える。

父は「時代は変わった、それが世の常だ」と言うが、職人のプライドから息子の転向を受け入れられない。

喜劇ではあるのですが、とても静かな映画でした。無口な主人公はじめ台詞が極限まで切り詰められており、またニコス・キポロゴスが担当する音楽の使い方が特徴的です。ミシンとオーケストラ、羽箒とシンバルのブラシワークなど、生活音と楽器演奏のシンクロを多用し、ニコスと隣のアパートに住むロシア系移民のタクシードライバーの妻オルガ(タミラ・クリエバ)の50代同士の恋愛のロマンチックで不穏な空気を演出しています。ギリシャには旧ソ連諸国独立以降の内戦状態から亡命した移民が多く流入しているので、その暗示もあるのかもしれません。

トリッキーなカメラアングルにも、本作が初長編映画の女性監督のただならぬセンスが滲む。移動販売の車両が、拾った廃材で自作したリアカー、SUZUKIのオートバイ、シトロエンと出世する、わらしべ長者みたいな展開が楽しく、子役は愛くるしく、郊外の町並みも背景のエーゲ海もただただ美しいのですが、銀行のエレベーターが止まっていたり、父親の入院先の病院にシーツ、タオル、ハンドソープを自前で持ち込まなければならなかったりと、経済危機の深刻さをあらためて感じました。

 

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