部屋の片面を埋め尽くすRoland System700(モジュラーシンセサイザー)。インドを放浪中の友人ミシェル・マニャフスキから部屋ごと借り受けている。反対側には自身のYAMAHA CS-80。ゴダールのポスター、パティ・スミスのLPジャケット。1978年。クラフトワークが "The Man Machine" をリリースし、Yellow Magic Orchestraが世界デビューする前年のパリで新しい音楽を創造しようと模索する女性ミュージシャンの波乱の1日。84分の映画の大半はパリのアパルトマンの一室を舞台に描かれる。
「80年代になったら新世代はロックに見向きもしなくなる。ロックコンサートは臭くて汚い」。プロデューサー(フィリップ・ルボ)には何度もビズをされ、機材の修理屋(テディ・メリ)には高価なリズムマシン Roland CR-78を貸し出す見返りにキスを求められる。当時の男性優位な業界のセクハラも描かれる一方、スロビング・グリッスルやアクサク・マブールの新譜を聴かせてくれる老レコードコレクター(ジェフリー・キャリー)や業界の大御所に酷評されて凹む主人公を「人生で大切なのは転んだ回数より起き上がった回数だ」と励ます弁護士ポール(ローラン・パポ)はいい奴です。
部屋を訪ねてきた歌手のクララ(クララ・ルチア―二)。オープンリールを何度も巻き戻してアナの作ったトラックに歌詞と旋律を当てていく。初対面のふたりが音楽制作を通じて意気投合していくシークエンスにはわくわくしました。
初監督のマーク・コリン自身もミュージシャンで、当時のニューウェーブの名曲、レア曲に違和感のないオリジナル曲と劇伴を自ら制作しています。「スーサイドは好みじゃない」と主人公に言わせるのも好感が持てる。
原題は "Le Choc Du Futur" アナとクララが共同制作する曲名の仏訳ですが、ハービー・ハンコックの "Future Shock" は1983年リリースなのと、歌詞の内容からいってもアルビン・トフラーの『未来の衝撃』(1970)へのオマージュと考えていいと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿