2021年8月13日金曜日

イン・ザ・ハイツ

八月の曇り空。丸の内ピカデリー ドルビーシネマにて、ジョン・M・チュウ監督作品『イン・ザ・ハイツ』を鑑賞しました。

マンハッタン北部、ブロンクスの西、ハーレムの北、ジョージ・ワシントン橋の袂ワシントンハイツは中南米移民の街。ドミニカ共和国にルーツを持つ移民二世のウスナビ(アンソニー・ラモス)は、亡き両親から受け継いだ雑貨店を従弟ソニー(グレゴリー・ディアス4世)と営んでいる。

ウスナビの片思いの相手はバネッサ(メリッサ・バレラ)。地元の美容院でネイリストをしながら服飾デザイナーになることを夢見ている。ニーナ(レスリー・グレイス)は幼い頃から成績優秀、カリフォルニアの名門スタンフォード大学に入りコミュニティの期待を背負ったが、人種差別に悩みワシントンハイツに帰郷する。ベニー(コーリー・ホーキンズ)はニーナの父親が経営するタクシー会社の配車係。ニーナの元カレだ。

この男女4人を軸にしたひと夏の青春群像劇は、リン=マニュエル・ミランダ作2008年度トニー賞受賞のブロードウェーミュージカルの映画化。

「夢っていうのは綺麗に磨かれたダイヤじゃないの」「些細なことでいい、私たちの尊厳を示すの」。ドミニカだけでなく、プエルトリコ、コスタリカ、メキシコなど複数のルーツを持つ住民たちの多くは不法滞在者のため行政サービスを享受できないかわりに、濃密な人間関係に支えられた相互扶助により暮らしが成り立っている。

決して楽ではない暮らしも、サルサ、ルンバ、カリプソ、メレンゲなど、狂騒的なラテンのリズムで乗り越える。ティーンエイジャーの頃、放課後に地元の公園のサイファーでラップのスキルを磨いたという主人公ウスナビのライムがそのビートに対峙する。4人の主役だけでなく、主なサブキャラにもアリアが割り当てられ、歌声がみな素晴らしいです。

冒頭の高圧洗浄機のリズム、プールの大群舞の俯瞰ショット、アニメーション表現や壁伝いのデュオダンスなど、映画ならではのカタルシスも満載。『シカゴ』『ラ・ラ・ランド』と並ぶコンテンポラリーミュージカルシネマの傑作と言っていいと思います。

そして、悪役が登場しない。現実はそうはいかないと思いますが、映画の登場人物はみな善意によって行動しており、それが鑑賞後の爽快感につながります。

ほとんどの場面において、対話は台詞、モノローグは歌唱、という棲み分けがなされていてわかりやすいですが、路上で大声で心情吐露を熱唱したらみんなに聞こえちゃうよ、と余計な心配は不要です。ミュージカルなので。

 

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