2021年7月22日木曜日

竜とそばかすの姫

真夏日。シネマイクスピアリ細田守監督作品『竜とそばかすの姫』を観ました。

舞台は現代の高知県。清流仁淀川のほとり、JR土讃線沿線、吾川郡いの町あたりか。主人公は、幼いころに目の前で起きた水難事故によって母親(島本須美)を亡くした、自己肯定感の低い高校二年生の内藤鈴(中村佳穂)。亡き母が教えてくれたDTM、歌うことを、トラウマにより拒絶している。

「ようこそ<U>の世界へ。現実はやりなおせない、でも<U>ならやり直せる」。親友のヒロちゃん(幾田りら)が教えてくれた仮想現実SNS<U>。耳に装着したデバイスによりオリジン(ユーザー)の生体情報から本質的な性格や隠れた才能を凝縮して表出させたAsと呼ばれるアバターを生成する。鈴のAsであるBelleは<U>の歌姫となり、50億人のユーザーから絶賛とアンチのコメントを集める。

2009年公開の『サマーウォーズ』はとても好きな作品です。その細田監督が12年ぶりに仮想世界を描く作品を楽しみにしていました。この12年間でスマートフォンが普及し、ネットワークの通信速度とデータ量は膨大になり、SNSが文字通り良くも悪くももうひとつの社会として成立しました。

コミュニティを荒らす竜(佐藤健)と、正義と秩序の大義のもとにオリジンを特定して叩く自警組織ジャスティスは、実際のネットワーク社会のメタファーと受け取りました。竜が倒したジャスティスがポリゴン化するのはアイロニーが利いています。

仮想世界で『美女と野獣』をやりたかったという監督の意向をストレートに反映して、仮想世界をCGで表現したBelleのキャラクターデザインはディズニープリンセス、竜の城もディズニー感が強いです。一方で、現実世界は手書きアニメ、川面の光の反射や粉雪の描写などこのうえなく繊細で美しい。

竜を救うために葛藤の末、Belleが仮想世界で本来の鈴の姿を晒すことを決意することがストーリー上の大きな転換点ですが、その逡巡に共感できなかったのはジェネレーションの差なんでしょうね。僕みたいなオールドスタイルには、オンラインであれオフラインであれ、実名で顔出ししてはじめて責任ある言動ができる、顔出しするのがネットリテラシが低いのではなく、リテラシの低い人が顔出しするのがリスクだ、という固定観念があります。

またBelle(=鈴)が竜に惹かれる過程や毒親の無力化など、エピソードによる登場人物の感情の動きの裏付けが甘いのは、物語の基本構造がミュージカルだから。ラスト近く仮想世界の数億人のシンガロングで感動してしまうのは、音楽と映像の力にほかなりません。

2014年に下北沢SEED SHIPで、当時まだ大学生だった中村佳穂さんと一度共演したことがあります。彼女はその後すぐに大きなフェスに出演したりと大活躍していますが、今回この役によりまた多くの聴衆を得ることをうれしく感じています。

 

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