2020年12月22日火曜日

私をくいとめて

猫の日。TOHOシネマズ錦糸町オリナス大久明子監督、のん主演映画『私をくいとめて』を鑑賞しました。

2004年に20歳で芥川賞を受賞した綿矢りさが2017年に発表した小説を実写化。主人公黒田みつ子(のん)は31歳のおひとりさま。隣室の住人の深夜のホーミーに悩まされている。日課は先輩OLノゾミさん(臼田あさ美)と共に必要悪と呼ぶ来客へのお茶出し。取引先の歳下営業担当多田(林遣都)に好感を持つが、お気楽な生活を変えるのは気が進まず、一歩を踏み出せない。

みつ子の脳内にはAという名の相談相手(中村倫也)がいて、困ったときや迷ったときに答えを示してくれる。「無機質かと思えば妙にネガティブなときは感情がこもる」。AはAnswerのA。Aの言葉は客観的だが、脳内人格だからみつ子を決して傷つけることなく、背中を押してくれる。

前所属事務所とのトラブルもあり『あまちゃん』以降は作品に恵まれなかった印象のあるのんさんですが、ようやく代表作と呼べる映画に巡り会えたのではないかと思います。こんなに感情表現できるんだという驚きもありながら、舌打ちしてこその彼女だし、ローマに住む親友皐月(橋本愛)を訪ねる潮騒のメモリーズのリユニオン。お互いの姿をデッサンする無言のシーンは鉛筆と雨音だけが聞こえ、歳月を越えて沁み入るものがあります。

脇役では、ヘッドハントされた上司役の片桐はいりもよかったですが、臼田あさ美の存在感が別格。『架空OL日記』でもそうでしたが、スクリーンに映るだけでコメディ色が滲む。ワンカットだけ登場する山田真歩のお芝居も最高です。今をときめく中村倫也をナレーションだけという贅沢な使い方をして、妄想が像を結ぶと前野朋哉の姿と声(しかも水着姿)に変わる演出も気が利いている。

撮影は大久組の中村夏葉。主人公の心情が揺れる前半は不安定な手持ちカメラ、物語が進む中盤以降は固定カメラを主に使用しています。歯科医との不本意なデートを回想する場面では、帰宅した玄関でグッチのハイヒールを脱ぐ所作をじっくりと時間をかけて撮影するのですが、役を美しく撮るということは、表面上のかわいさだけでなく、狡猾さや打算やその果ての落胆まで、すべてを映し出してしまうものなのだな、と思いました。

 

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