2018年1月3日水曜日

新世紀、パリ・オペラ座

今年も三賀日は映画館へ。渋谷Bunkamuraル・シネマで、ジャン=ステファヌ・ブロン監督のドキュメンタリーフィルム『新世紀、パリ・オペラ座』を鑑賞しました。

パリ・オペラ座には、ガルニエ宮オペラ・バスティーユというふたつの建物があります。そこで350年以上にわたり毎晩上演されている世界最高峰のオペラとバレエ。

新キャストのオーディション、プレス対応、主役級の突然の降板、従業員のストライキ、演出家の無茶振り、悩める芸術監督、降りかかる大人の事情。ステファン・リスナー総裁はじめとする裏方たちの奮闘の日々を記録しています。

昨年同館で観た『パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち』はバレエダンサーに焦点を当て、身体表現者たちの息づかいや足音をダイナミックに切り取った思い切りの良いドキュメンタリーでした。本作は、入場料設定会議からキャスティング、リハーサル、本番に至る過程に関わる膨大な人数のスタッフ、清掃係やランドリー担当者まで、ひとりひとりの表情を素早いテンポの編集できめ細かく見せる。

インタビューカットやナレーションはまったく入らず、テロップも最小限。日本の地上波テレビの説明過剰に慣れた目にはあまりにそっけなく感じられるかもしれませんが、それでも関係者個々の心情が痛いほど伝わってくるのは撮影と編集に力があるからでしょう。

キャストの出ハケから照明の切り替えまで、舞台袖から秒単位で目まぐるしく指示を投げ続ける女性舞台監督が、お気に入りのアリアになると全力で歌い出す。微笑ましくも愛情溢れるシーン。

フランス、イタリア、ドイツ、ロシア、アメリカ、カナダ、アジア系、アフリカ系。世界最高峰を目指すことでキャストは完全にグローバル化しており、会話も仏語、英語、独語。国立の施設においても自国人の雇用より至高の芸術を優先するのがフランスの懐の深さか。

2015年、パリ市内で起きたシャルリー・エブド紙襲撃事件とサッカースタジアムおよびコンサート会場における同時多発テロの直後に、旧約聖書の出エジプト記を題材にしたシェーンベルクの未完のオペラ『モーセとアロン』を上演するにあたり「公演を続けることが無差別テロに対する最大の抗議。芸術を、表現を止めてはならない」というリスナー総裁のスピーチは感動的です。



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