小春日和の日曜日。日比谷TOHOシネマズシャンテで、ドン・チードル制作・監督・脚本・主演映画 『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』を観ました。
ビバップ、シンフォニックジャズ、モード、フリージャズ、16ビート、HIPHOPと、1940年代末から65歳で亡くなる1990年代初頭まで、あらゆるロジックとアクションでブラックミュージックの歴史を塗り替えた音楽家マイルス・デイヴィスだが、1975年から5年間のブランクがある(Pangaea と The Man With The Horn の間ですね)。
その1979年のとある数日間に焦点を当てたフィクションです。半引退状態のマイルスをたまたま取材に訪れたRolling Stone誌の記者デイヴ・ブレイデン(ユアン・マクレガー)を巻き込み、盗まれたマスターテープを取り戻すために繰り広げられる派手なカーチェイスとガンアクション。その合間に挿入される1950年代の回想シーン。この二つを軸としつつ錯綜する時系列。寓意に満ちた設定。
マイルス自身の演奏とロバート・グラスパーのオリジナルスコア、パンを多用したカメラワークの95分で、観賞後には酩酊したような感触が残ります。
「俺の音楽をジャズと呼ばないでくれ。ソーシャル・ミュージックなんだ」。ショパンやストラヴィンスキーへの言及や「D9でFフラットは使うな」と若いプレーヤーを罵倒したり、神経質で傲慢な性格のピークを過ぎた芸術家像をチャーミングに魅せているのは、ユアン・マクレガーや妻フランシスを演じたエマヤツィ・コーリナルディ、ジュニア役キース・スタンフィールドら、脇役の力でしょうか。
回想シーンに登場するビル・エヴァンスやジョン・コルトレーンは似ていないのですがさして気にならないのは、随所に散りばめられたファンタジー色やフェイク感のせいだと思います。それが凝縮されているのがラストの演奏シーン。ウェイン・ショーター(SS)とハービー・ハンコック(Pf)は本人が年老いた現在の姿で登場し、チードル演じるマイルス(Tp)は1979年のまま(音はキーヨン・ハロルドの当て振り)、リズムセクションの4人、グラスパー(Key)、エスペランサ・スポルディング(EB)、ゲイリー・クラーク・ジュニア(Gt)、アントニオ・サンチェス(Dr)は現在売出し中の実力派。
そしてマイルスの衣装の背中には「#socialmusic」の刺繍。1979年にはハッシュタグなんか存在しなかったわけじゃないですか。更にスクリーンにはテロップで「May 26 1926- 」と誕生日のみを表示し、没年月日は空欄という念の入れよう。もしもマイルスが映画のままの姿で現代に飛び出して来たら、存命中のレジェンドたちと活きの良い若手、国籍や人種、性別、年齢を問わず、自分の音楽を実現する力のあるミュージシャンを起用しただろう。そんなメッセージを感じる爽快感のあるエンディングでした。
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