湿度が低く涼しいお盆初日。渋谷アップリンクでジョン・クローリー監督映画『ブルックリン』を観賞しました。
舞台は1950年代、アイルランド第二の都市エニスコーシーに老いた母親と暮らす美人姉妹。不景気で妹エイリシュ(シアーシャ・ローナン)に高待遇な地元の職はなく、同郷の神父(ジム・ブロードベント)を頼り、ひどい船酔いに苦しみながら単身ニューヨークに渡る。
NYブルックリンのアイリッシュコミュニティの女子寮の寮生は複数の百貨店に勤務している。人材不足のポストに神父が斡旋しているのだ。食事前には厳格なカトリックの祈禱、メニュは羊のシチュー、パーティではアイリッシュダンスを踊る。
フィジカルな意味でもメンタルな意味でも厳しい境遇をリアリズム的視点で描いていますが、登場人物に本質的な悪人がいないので、優しい感触が残ります。女子寮のいじわるな先輩2人も肝心なところでは助けてくれるし。その2人とイタリア人の末弟や寮母の台詞に控え目なユーモアがにじみます。
イタリア系移民のボーイフレンド(エモリー・コーエン)ができたことで、イタリアンコミュニティに接するが、彼らもまた礼儀正しく奥ゆかしい。大航海時代にイギリスとオランダというプロテスタント大国が侵攻した北米大陸において、後発のカトリック教徒であるアイルランド系とイタリア系は反目しつつもシンパシーを感じ、ブルーカラーとして多様性社会を形成していった。アメリカという国家はこういう風に成り立ってきた、ということが理屈ではなく体感的に理解できる。
主人公や同僚たちの衣装がノスタルジックで可愛い。パステル主体でヴィヴィッドな差し色をわずかに加えたスクリーンの色調。弦楽アンサンブル中心のマイケル・ブルックのサウンドトラック。演出には抑制された美があります。
主人公を演じるシアーシャ・ローナンは翡翠色の瞳のアイルランド人。16歳にして冷徹な殺人マシンを演じた『ハンナ』が印象的ですが、22歳になり、すこしたっぷり感が出て、お芝居で魅せる大人の女優になりました。
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