暖冬ですね。ユナイテッドシネマ豊洲で、山田洋次監督作品『母と暮せば』を観ました。
1948年8月の長崎。坂の上に住む助産婦伸子(吉永小百合)のもとに3年前の原爆投下で亡くなった医大生浩二(二宮和也)が現われる。
井上ひさしの戯曲『父と暮せば』の翻案ではありますがオリジナルストーリーといって差支えないと思います。「父」では広島の原爆投下で亡くなった父親がひとり暮らし娘の押入れに住んでいる。2004年に黒木和雄監督が宮沢りえと原田芳雄で撮った劇場版映画は名作です。
浩二は伸子の見ている幻影であり、実際には伸子の内面の葛藤を表している。葛藤とは、死んだ息子を通して共依存関係にある浩二の恋人町子(黒木華)とのリレーションシップを継続するか否かにある。
その葛藤の解決に向けて物語が収斂していく以上、あのエンディングは不可避とも言えるのですが、天使の合唱のなか被昇天というあまりにヘヴンリィな演出に対しては疑問を禁じ得ませんでした。被曝後遺症の悪化が示唆されているものの、ジェノサイドにより家族を失い、そのことで得た疑似家族さえも去ったあと、孤独を生きる姿を描いてほしいというのは求め過ぎなのでしょうか。
8月9日の原爆投下は、当初小倉が標的であったが、天候不順により長崎に変更された。投下直前のB29爆撃機内の緊迫感と地上の路面電車の通学風景の日常性の対比。そのふたつを被爆の瞬間の光線と轟音が一気に結びつけ崩壊させる。冒頭数分のモノクロ画面は、戦争の非情さ、理不尽さを存分に描いた素晴らしい演出です。
キリスト教会や高台から見下ろす長崎の街並みを切り取るカメラワークは流石の安定感。坂本龍一のサウンドトラックもヘンデルからシェーンベルクに至る古典音楽の系譜を俯瞰したかのような小編成弦楽アンサンブル中心の大変美しく感動的な音楽です。
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