2022年2月1日火曜日

ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ


英国ウェールズの農村モンマス、1963年。牧場主の息子、チャールズとキングスリーのウォード兄弟はバンドを結成し、自宅でレコーディングする。録音したテープとオープンリールデッキを持って意気揚々とロンドンのEMIのオフィスを訪ねるが、ジョージ・マーティンにデビューを断られる。レコード会社が出してくれないのなら、自分たちでを作ればいい。これが発端。DIY。

父親の所有する広大な農園の家屋のひとつをレコーディングスタジオに改造する。壁の吸音材は豚の飼料の麻袋。はじめは地元の音楽仲間の練習や録音をしていたが、レスター出身のプログレバンドSPRINGが居候のように長逗留したことで、滞在型録音スタジオという従来になかったモデルに商機を見出す。

ブラック・サバスホークウィンドモーターヘッドクイーン、1970年代の名盤たちがロック・フィールドで生まれた。都会の喧騒とレコード会社の干渉から離れ、音楽制作に集中できる環境。ドラッグもやりたい放題。養豚と酪農を継続していて和む。家族経営のアットホームなおもてなしで評価を得て、本格的なマルチトラック施設を2部屋に増設。豚舎をリバーブルームに改造した。

1980年代はエレクトロポップの流行により、経営は若干下り坂だったが、1stアルバムの制作をロンドンから移したスコットランドの片田舎出身のシンプル・マインズが向かいのスタジオを覗きに行ったらイギー・ポップが "SOLDIER" のレコーディング中、全身赤でキメたデイヴィッド・ボウイがハイネケンと巨大なチーズを持って登場し、その場のノリでシンプルマインズがイギーのバックコーラスをすることになったり。

ロックフィールドが隆盛を極めた1990年代、経営者兄弟はBMWに乗っていました。ロックフィールドに来て3年間何もしていないらしい、と聞いた地元マンチェスターの先輩ザ・ストーン・ローゼズを"Wonderwall" 制作中のオアシスリアム・ギャラガーが訪ねるエピソード。ブー・ラドリーズザ・シャーラタンズなど、1997年のUKアルバム年間トップ10のうち7枚がロック・フィールドで制作されたという。1970年生まれのベリーマン監督はこのあたりがリアルタイム世代なのでしょう。プロデューサーのジョン・レッキーにも尺が割かれています。

現在は乳牛の世話をしながら、録音スタジオと並行して、貸別荘とワークショップの事業展開もしているとのこと。85分というコンパクトなフィルムに各世代のブリティッシュロックのレジェンドが次から次へと登場しますが、主役はスタジオとウォード一家です。1987年に兄弟が袂を分かち、隣接する農園に兄チャールズが別のスタジオを新設する。映画では「考え方の違い」というキングスリーのコメントのみ。どんな確執があったのか聞いてみたかった。

酒とドラッグの武勇伝に事欠かない過去のロックスターたちと比べると、しんがりを務めるColdplayはクリーンでスマートでロマンチック。ホームビデオが普及する1980年代以前のスタジオ映像はほぼ静止画ですが、切り絵のアニメーションがチャーミングに補完しています。ロックフィールド発で初のNo1ヒットで且つ現代では忘れ去られているACEの "How Long?" がエンドロールというのもアツい。この映画を観るまでアメリカのバンドだと思っていました。

 

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