曇天。ユナイテッドシネマ豊洲で、是枝裕和監督作品『万引き家族』を観ました。
東京23区の北東部、綾瀬、北千住あたりか。再開発エリアの谷間に取り残された瓦葺の木造平屋。衣類や食器や生活雑貨で乱雑に汚れた家に暮らす5人家族。祖母初枝(樹木希林)の年金、日雇い建設作業員の父親治(リリー・フランキー)、クリーニング工場パートの妻信代(安藤さくら)の収入は不安定で、足りない分は食品や日用品の万引きで賄っている。
2月、真冬の夜。父子は通りかかったアパートの廊下に放置されていた5歳の少女ゆり(佐々木みゆ)を家に連れて帰り、ともに暮らし始める。
「自分で選んだ方が強いんじゃない?」「何が?」「絆よ」。6人家族のうち血縁があるのは初枝と信代だけ。翔太の補導と初枝の老衰死によってそのことが明らかになる。疑似家族の在り方を通じて「家族とは?」という疑問を提示するのは、『海街diary』『そして父になる』等、最近の是枝作品に共通するテーマです。
風俗店に勤める松岡茉優(左利き)と客の池松壮亮もそのフラクタル。若いふたりの関係だけが上映時間中に一歩進む。
芸達者な役者たちを芸に走らせずリアルな会話をさせる是枝監督は、今回も子役たちの自然な声と表情を引き出すことに成功しています。翔太役の城桧吏(左利き)の撮影中の成長は物語の時間軸とリンクして感動的ですらあります。
近藤龍人のカメラワーク。隅田川の花火の夜、縁側から夜空を見上げる6人家族の顔を庇の上から俯瞰で切りとる。細野晴臣の音楽も控え目な穏やかさの中に不穏の前兆を感じさせて見事です。
カンヌ映画祭でパルムドールを受賞したことで注目され、戦前大日本帝国の伝統的家族観を信奉するみなさんの批判を集めていますが、作中の家族が、表面上はヤンキーカルチャーを支える地元血縁主義に似せて、実際は疑似家族というカウンター構造になっている点において、是枝監督が一枚上手と言えましょう。
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